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しかし、よく考えてみた。
いったいなんて言えばいいんだろう。
いつもここで座ってるね、とでも言えばいいのだろうか、それじゃあまるでストーカーみたいじゃないか、嫌われるのは目に見えている。
いきなり名前を聞くというのも、僕のような人間には難しいものだ。
どうすれば不信感を持たれずに会話ができるか僕は頭を悩ませた。
そもそも僕はコミュニケーションが苦手だ。
いつのまにか、友人がいなくなり、自分から同級生に話しかけることなんてほとんどなかった。
体育でペアを組む時に余った奴に声をかけたくらいだ。
そんな僕が、赤の他人、それも女の子に話しかけるなんて、テストで100点とるのと同じくらい難しい事だった。
不意に駅の時計に目をやると、電車が発車してなら既に5分以上過ぎていた。
情けない……本当に情けない。
これほどに自分に落胆したことは無い。
自分は気になっている女の子に、まともに話しかけることすら出来ない。
溜息をつきながら、反対のホームを眺めていた。
すると、隣から先程聞いた声が聞こえてきた。
「あなたはどうして乗らなかったの」
空耳かと思った。
でも間違いない、これはさっき聞いた彼女の声だ。
半信半疑のままゆっくりと振り向くと、少女はこちらに向けて半身になり、さっきまで読んでいたであろう本を膝に置き、手を添えていた。
間違いない、彼女は僕に問いかけていた。
「僕も、帰りたくなかったので」
嘘は言っていない。
帰りたくないというのは本当だ。
ただそれは、少女といたいからであって、別に家庭に問題があったりするわけではないが。
帰りたくないという僕の言葉を聞いた彼女は、すこし安堵したかのように見えた。
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