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「あなたもなのね……あの、あなた1年生よね」
少女からさらに話しかけられ、僕は心踊った。
「あ、はい。1年です。1組の吉田兼人です」
驚くほどすんなりと名乗ることができた。
「私は3組の儀同泉水」
そうか、泉水というのか。
さらに胸が熱くなる思いがした。
少し前にその存在を知った彼女に、僕は心を奪われていた。
しかし、なんの接点もないし、臆病な自分には彼女と仲良くなるどころか、声をかけることすら困難だった。
しかし、勢いにまかせて声をかけると泉水は答えてくれた。
さらに話を続けてくれた。さらには名前まで教えてくれた。
ほとんどの人からしたら、何をそんなことで感激しているんだと、投げかけられるだろう。
しかし僕にとってはその大したことの無いやり取りでも天に昇るような心地にさせてくれた。
気がつくと彼女はいつも通りに本を開いて読み始めていた。
僕の目線には気がついていないようだ。
僕も体を前に向け、斜め上を向き、空を見上げた。
空はすこし曇っていたが、僕の心は晴れ渡っていた。
─────数十分後、僕はいつも通り電車に揺られていた。
だがひとつ、いつもと違うところがあった。
同じ車両に彼女、泉水が乗っていた。
僕は何度も、左斜め前の席に座る泉水の姿を見ていた。
しばらくして、泉水は何も言わず電車を降りていったが、僕の心は満たされていた。
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