結びの歌

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 どこかで聞いたことがある。  外国語を覚えるにはその国の恋人を作ればいいと。  愛する人ができると、その人を理解するために言葉を学び、覚えようとすると。  それは、言語に限らず全ての物事がそうではないかと僕は思う。  愛する人との距離を縮め、愛する人と一緒にいられるのなら、人というのは、興味が無いとか、嫌いだとか、そんなことは忘れて理解しようと、克服しようと励むのだろう。  僕の故郷は周囲を山や緑に囲まれた町だった。  コンビニなんてものは近所に無いし、近くにあるのはスーパーと小さな個人商店くらいだ。  電車も1時間に1本で、乗り遅れると待つのが辛い。  昔はもう少し走っていたらしいが、老朽化や乗客の減少なんかで減っていったらしい。  時々、獣が出てくることもあり、車でちょっと山道を走ると鹿や猪が飛び出してきたこともある。  そんな僕の育った町は良いように言えば自然が豊かでのびのび暮らせる場所、悪くいえば何も無い場所だ。  僕はそこで生まれてから18年間暮らした。  高校を卒業するのを機に僕は生まれ育った故郷を離れ東京の大学に進学した。  こんなこと言うとあれだけど、別に東京に憧れていたとか、故郷が嫌いとかそんなことでは無い。  ただ、一つだけはっきりと言えることがある。  人は愛する人ができると変わる。  まさに僕がそうだ。  物事の考え方も、趣味趣向も、その先の人生さえも。                  また新たに人生を歩めば時々は故郷に帰ってくる時が来るだろう。   ただ、たとえもし故郷へ帰る機会がなくとも、故郷での思い出を忘れる日は1日だって存在しない。してはいけないのだ。
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