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「……この世界にも、〝信西〟なる御仁はいるのですか?」
「えぇ」
「〝藤原信頼卿〟も?」
「えぇ。こちらは、温厚な方のようだけど」
「……『平治の乱』を起こすような方ではない、と?」
「少なくとも、今はそういう性質には見えないわね」
「左様でございますか……」
こちらの〝平清盛公〟と父上とは、旧知の仲と伺ったことがある。今の関係も、特筆すべきことはないようだ。
では、信頼卿と関わるようなことがなければ、父上や異母兄上方が〝反信西派〟として兵を挙げるようなことにはならぬか……? いや……
「信西殿の人となりは、いかような……?」
「あちらもこちらも、あまり変わらないような気がするわ」
「左様でございますか」
注意すべきは、信西殿か。父上は、何も仰っていなかったが……いや、違うな。
私の耳に政の話は入って参らぬ。童ゆえに、世俗から守られているのだろう。
信西殿に思うところがあるか……などと、家族に訊ける訳もない。今の私に、できることは……
私は居ずまいを正した。
「ふたたびの無礼をお許しいただきたく存じます。……唐突ではございますが、私の願いは、大切な者たちが天寿を全うすることでございます」
この世界で生きるには、甘すぎる願いやもしれぬ。だが〝私〟という人格を持ってから、初めて得た家族だ。
理不尽な人災によって彼らを喪いたくない。そう思う心に、時世は関係ないのではあるまいか。
「願いを申し上げた上で、教えていただきたく存じます。最善の道へとたどり着くには、いかがすればよろしいでしょうか?」
「……答えずらい質問をするのね」
神使の方は困ったように視線をそらされ、少しの間を置いて、私に視線を戻された。
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