些細な、されど大いなる歪み

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些細な、されど大いなる歪み

 幼い頃。私の内には、疑念と葛藤が渦巻いていた。  置かれた環境に不満があった訳ではない。  我が家には、正室である母上を始めとして、側室である義母(はは)上がおふた方いらっしゃる。住まいはそれぞれ別棟だが、家族仲は良好だ。私たち兄弟も、同母異母問わず仲が良い。  また武家であることから、父上や異母兄上(あにうえ)方の官位は高くなかったが、別段どうということもなかった。 『いかなる身の上にあろうと、己の責務を全うするのが、人としての誇りというもの』  源氏の長でいらっしゃる為義公──源のお祖父様の教えが、功を奏したのだろう。  清和天皇陛下の末裔であるという誇り。  己の立場をわきまえ、相手の立場を慮る。  皆が、これらを心に留めながら生活しているからこそ、邸内には、いつも笑顔があふれていた。
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