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わだかまりは、いまだ私の内にある。だがこれからは、彼らに伝えていこうと思う。
ともにいられるうちに。
心を尽くして。
私がいかに、彼らを大切に思っているかを。
「髪結いを終えたら、早速そなたに伝えておきたい」
「良い知らせですの?」
もう片方の耳前にも束を作るため、丁寧に櫛けずる。近江の手つきは、優しい姉そのものだ。
「そなたにとって、良い知らせであればよいが」
私は苦笑した。
近江から渡された手鏡で、仕上がりを確認する。手早く丁寧な仕事ぶりで、本日も見事に仕上がっていた。
「髪結いの道具を片づけたら、私の前に座してくれ」
「はい」
近江は、そわそわしつつも片づけを済ませ、静かに座した。
私は近江の目を見つめた。
「そなたの細やかな心配りには、いつも感謝している。日々を過ごす上で、そなたがいてくれることを、ありがたく思う」
「……若様……」
近江が目を見開き、声を震わせた。
「そなたの髪結いは、いつも見事だ。紐の結び方も日によって異なるのが、実はひそかな楽しみなのだ」
感謝を素直に伝えられる。
そのことを、嬉しく思う。
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