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近江の目が潤んでいる。突然のことに戸惑いを覚えつつも、嬉しさが上回り感極まったようだ。
「私は童の身だが、主として精進して参るゆえ、これからもよろしく頼む」
私は腿に手を置き、近江に向かって頭を下げた。
「……そのような……もったいないお言葉……」
近江の目から、涙がこぼれた。
私は膝を寄せ、頬をつたう清らかな雫を指でぬぐった。この者も守るのだと己に誓いながら。
「そなたの涙をぬぐう役目を買って出たと申したら、仲綱殿 (近江の婚約者)に叱られそうだな」
「まぁ……朝長様のようなことを仰いますのね」
「異母兄上ならば、これくらいで済まぬのではないか?」
「ふふ。そうかもしれませんわね」
朝長異母兄上を引き合いに出してしまったが、近江の涙を止められたのなら、よしとしよう。
その後、近江が落ち着いたところで私室の御簾をくぐった。
近江を伴い、家族で朝餉をいただく広間へと向かう。
庇の間 (廊下)を通ると、朝日に映える庭が目に入った。庭師が精魂込めている庭は、塵ひとつなく清々しい。
後光のような朝の光が、木々や草花を照らし。花たちも応えるように、みずみずしく色あざやかに咲き誇っている。
まるで我が家の女性たちを目にしているかのようだ。
どの花も可憐で、健気に思う。
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