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……ゆえにこの方は、私に手を差し伸べてくださると……? すり減った神力をさらにお使いになり、結界を張ってくださってまで……
私の視線を受け止められた神使の方は、やわらかく微笑まれた。
「目を閉じて、気を楽にして」
言霊ではない。
強制力はない。
だが私は、この方に従った。
「これから見るものを受け入れるのは、あなたの自由よ。ただ、これだけは覚えておいて。それは、本当にあったことなの。まやかしや夢物語じゃないってこと」
念を押されるほど、にわかには信じがたいことなのやもしれぬ。だが私が抱えるものが何なのか、わかるならば否やはない。
「承知いたしました。よろしくお願いいたします」
「潔いわね」
神使の方は小さく苦笑なさった。私は目を閉じたままだったが、胸の前に大きな御手がかざされるのを感じた。
「《現世の鏡に隠れし、幽世の鏡よ。その姿を現しなさい》」
言霊とともに、あたたかな神力が私の内に流れてくる。
目蓋の裏に、ふたつの鏡が現れた。
……玻璃の鏡も、本来ならば〝この世界〟には……
ぴくりと眉が動いてしまったのを、神使の方はお見逃しにならなかった。
「今は、考えないで。答えは、すぐにわかるから」
なだめるような声が、私の張り詰めた心を撫でていく。
「……はい」
私は、見えてきたものに集中した。
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