君の胸元に似合いそうな三日月

1/1
前へ
/12ページ
次へ

君の胸元に似合いそうな三日月

 5月の終わりごろだった。最近はだいぶ調子が良くて、このまま状態が良かったら、1週間後に一時外泊もオッケーだって、先生に言われた。  やった。半年ぶりに、病院から出られる! そう思うと、居ても立ってもいられなかった。朱里と亮二に連絡すると、ちょうど1週間後に、亮二の試合があるらしい。よし、それ見に行くぞ! 二人にそう宣言した。 ”朔が見に来るなら、ヘボなとこは見せられないな”  亮二からのメッセージが届く。 ”うん。下手なスイングだったら、ヤジ飛ばすよ”  柄にもないことを、僕は返した。 ”亮くん、全部ホームラン打つって言ってるから、大丈夫だよ!”  僕の無理を、朱里も感じたみたいだ。でもこれって、どっちを気にしているんだろうか。    どこか行きたいところはあるか? 亮二が聞いてきて、そこまでの体力はないぞ、と返す。その辺が、亮くんのデリカシーの無さよね、と朱里も続いて、多分あの頃なら、3人とも笑い合ってたんだろうなと、屋上のベンチから、夜空を見上げた。  きっとまた会えば、もう一度、顔を見て話せば、あの頃に戻れるかもしれない。でもそれを、あいつらも望んでいるだろうか。  奇麗な三日月の夜だった。朱里の胸元に、似合いそうに見えて、そっと三日月に手を伸ばしてみる。  ああ、そうだ。あいつ、もうすぐ誕生日だ。  伸ばした手で、三日月を壊さないように、大切にポケットへ忍ばせた。くさりを付けて、朱里に贈ろう。  そばに置いているスマホが、メッセージの到着を知らせた。 ”朔が遊びに来るの、楽しみに待ってるからね”  少しだけ考えて、結局無難に、ありがとう、と返した。  もう少し、気の利いた言葉でも返せたら良かったのだけど、朱里とは小さいころからずっと一緒で、きょうだいみたいで、飾った言葉なんて、お互いに使えなかった。 「くさりは、余計か・・・・・」  画面の文字に、僕は呟いていた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加