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虹橋の向こうへ
今日は朝から大雨だった。大粒の雨が、激しく窓を叩く。明日の天気予報は、少しだけ雨の方が優勢みたいだ。
”大雨で試合中止になったら、ドームに野球見に行くか”
亮二からのメッセージを見て、思わず笑った。どんだけ好きなんだよ。
でも、それもいいか。そう思って返信したら、
”あなたたち、どんだけ好きなのよ”
朱里が笑って返信してきた。笑ってるかどうかは分からないけど、きっと、画面の向こうで笑ってると思った。
一泊分の荷物をカバンに詰めていると、僕の手元に柔らかい光が当たりだした。さっきまで激しく降っていた雨音が、聞こえなくなっていて、ふと窓の外を見上げた。
あっ! と思いがけない光景に、声を上げて、僕は部屋を出た。手すりを伝いながら廊下を歩き、急いで屋上への階段を登る。
屋上の扉を開けると、じんわりした、温かい空気に乗って、大きくて、色鮮やかな虹が、僕の目に飛び込んできた。あの日、朱里と一緒に見た、大きな虹。晴れた空に、きれいなアーチを描いて、遠くの街まで、東京まで伸びているようだった。
ベンチに座って、大きな虹を見つめる。
ふと、子供のころの記憶が蘇った。小学校に入ったくらいだったろうか。大雪が降った日があった。家の前の空き地にも、沢山雪が積もって、僕と朱里は大喜びで、雪だるまを作った。
調子に乗って作ってたら、胴体が自分たちの頭まで届く大きさになって、雪だるまの頭を乗せるのに、すごく苦労したっけ。
その年の我が家と朱里の家の年賀状は、雪だるまを挟んでポーズをとる、僕と朱里だった。朱里の方が背が高くて、お姉さんみたいに澄まして映っていた。
空き地で転んで膝をすりむいて、痛くて泣いていると、朱里は家まで走って行き、絆創膏を持ってきて、貼ってくれた。
中学生になって、僕の方が背が高くなって、姉弟みたいな僕らの関係は終わったんだ。
なんで今頃、思い出すんだろうな・・・・・
僕はポケットを探ると、大切に忍ばせた三日月を、虹橋に託した。
愛する君よ、自由に。
言葉にすることは無いだろう想いを、虹橋に託した。
大きな虹は、きれいなアーチを描いていて、青空の一番高い所で、鮮やかに輝いていた。
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