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②
教室のドアを開けると誰もいなかった。
あぁ、今日は午後から魔法の授業だったな、と思いだしラットラルは大きく溜め息を吐いた。
重い足取りで魔法訓練室へと向かう。
魔法訓練室に着くと皆が教師の指導のもと、ふたりペアになって魔法を行使していた。
今日はペアを組んで魔法を使うのか……。
「あ! ラットラル! お前遅かったなー。何してたんだ? 俺と組もうぜ!」
キャトルニアだった。
貴方のせいで目を回して寝てました、とも言えず、ラットラルは曖昧に笑っただけだった。
キャトルニアはラットラルのそんな様子にもまったく気にした風もなく、ラットラルの元に駆け寄るとその手を掴んで空いている場所へと引っ張っていった。
「おやおやー。ラットラル殿は誰もがうらやむ上位の尊い存在であらせられるキャトルニア様と組まれると。さぞやラットラル殿は素晴らしい魔法をお使いになられるのでしょうな。くくっ」
猿の国の王子モントだった。嫌味な笑みを浮かべている。
知ってるくせに……!
「そうだぞ。ラットラルはすごいんだ! 見よこのしっぽ! 細くて長くて美しいではないか! みなもそう思うだろう? 他にもこの大きな耳もちいさなおし……り、もごもご」
今何言おうとした? 何言おうとした――?!
ラットラルは顔を真っ赤にさせ、慌ててキャトルニアの口を両手で押えた。
「ぷはーっなんだよ。ラットラルのすごさをみなに伝えようとしただけだろう?何で邪魔するんだ?」
恥ずかしすぎる! 恥ずかしすぎる!! 穴があったら入りたい……!
最近分かった事だがこのキャトルニアという人は僕のことを本当にすごいと思っているらしかった。主に見た目が……綺麗とか可愛いとかなんとか/……。
でも、それって能力と違うよね? 今言ってるのは魔法の話だよね?
「殿下――僕は魔法をひとつも使えません……」
「魔法? そんなものが何だと言うんだ。ラットラルの素晴らしさに関係ないだろう?」
本気で言ってるから怖い。
貴方には分からないんだ。誰にも使えないような高等魔法をいくつもいくつも使える貴方には……。
ラットラルはぎゅっと下唇を噛んだ。
「はっはっはっはっはーっ」
突然の大笑い。モントだった。
「ラットラル殿は御自身の事をよくお分かりのようですな。キャトルニア様もそのような者を素晴らしいなどと申されては貴方様を侮る輩もでてくるやもしれませんよ?」
「モント殿、口がすぎますよ。あまりそのような口をおききになると貴方のお立場の方こそ危ういのでは?」
割って入ったのはゴーダだ。モノクルがきらりと光った。
途中までは事の成り行きを黙って見ていたがモントのあまりの言いようにキャトルニアが爆発するのを恐れたのだ。
キャトルニアは自分の事では滅多に怒らないがラットラルの事となると我を忘れてその膨大な魔力を暴走させてしまう恐れがあった。
もしもこんな場所で暴走してしまえばどれ程の被害が出てしまうのか、そうなってしまえばいくら大国の王子といえど立場が危うくなってしまう。
ゴーダは少々残念なところもあるがキャトルニアの裏表のない素直な性格を好ましく思っていた。だからこんな事で問題を起こして欲しくはなかったのだ。
しばしの睨み合いの後、引いたのはモントの方だった。
ゴーダとモントでは立場的には中位と同等であるがここは引いておいた方がよいと判断したモントはふんっと鼻を鳴らして魔法の訓練に戻った。
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