【73】

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「……白くん……私もうそろそろ行くね……」 「……あ、はい」  ふらりと立ち上がった穂積だったが、目の前から突然姿が消えた。椅子が机と接触する音が響き、食堂内は騒然とする。  穂積が死角に消えたことを、白都は直ぐ理解した。  倒れたのだ。そして、起き上がってこない。  白都は危機を感じ、直ぐ反対側に回る。そして穂積を揺り動かした。  すると、穂積は薄く目を開けた。茫然としており視点が定まっていない。 「…………ごめん、大丈夫……」  だが意識は保っているらしく、声だけは聞こえてきた。 「……ほ、保健室行きましょう。立てますか?」 「…………うん……」  周囲の力を借り立ち上がった穂積を支え、白都は保健室へ向かった。 ***  穂積は相当体調を悪くしているらしく、保健室のベッドに入るなり眠ってしまった。  保険医曰く、貧血だろうとのことだ。  夕方、帰宅前に保健室に寄った時、穂積は既に居なかった。保険医も席を外しており、回復したのか病院に行ったのかは定かではない。  終わったはずなのに、まだ不安になる。不穏感や亀裂が、目に見えると胸が締め付けられる。  白都は薄暗い空の下を、俯きながら進んだ。  空しく、悲しく、苦しい。出来事全てが鮮明に記憶に焼きついており、残されていた気力まで奪ってゆくようだ。  因みにアルバイトは、店長の提案で復帰可能な時に連絡を入れる約束になっている。その為、今日も休みだ。  このまま辞めてしまおうかな、と辞職を考えていると、分かれ道に辿り着いた。  裏道を避ける必要は無いが、染み付いた拒絶感に従い、表通りへと歩き出す。 『やっぱり来ないと思ったけどな』 「えっ……?」  強い力と忘れるはずの無い声に、白都は愕然とした。  後ろには、消えたはずの御面が居た。
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