20人が本棚に入れています
本棚に追加
/123ページ
「……白くん……私もうそろそろ行くね……」
「……あ、はい」
ふらりと立ち上がった穂積だったが、目の前から突然姿が消えた。椅子が机と接触する音が響き、食堂内は騒然とする。
穂積が死角に消えたことを、白都は直ぐ理解した。
倒れたのだ。そして、起き上がってこない。
白都は危機を感じ、直ぐ反対側に回る。そして穂積を揺り動かした。
すると、穂積は薄く目を開けた。茫然としており視点が定まっていない。
「…………ごめん、大丈夫……」
だが意識は保っているらしく、声だけは聞こえてきた。
「……ほ、保健室行きましょう。立てますか?」
「…………うん……」
周囲の力を借り立ち上がった穂積を支え、白都は保健室へ向かった。
***
穂積は相当体調を悪くしているらしく、保健室のベッドに入るなり眠ってしまった。
保険医曰く、貧血だろうとのことだ。
夕方、帰宅前に保健室に寄った時、穂積は既に居なかった。保険医も席を外しており、回復したのか病院に行ったのかは定かではない。
終わったはずなのに、まだ不安になる。不穏感や亀裂が、目に見えると胸が締め付けられる。
白都は薄暗い空の下を、俯きながら進んだ。
空しく、悲しく、苦しい。出来事全てが鮮明に記憶に焼きついており、残されていた気力まで奪ってゆくようだ。
因みにアルバイトは、店長の提案で復帰可能な時に連絡を入れる約束になっている。その為、今日も休みだ。
このまま辞めてしまおうかな、と辞職を考えていると、分かれ道に辿り着いた。
裏道を避ける必要は無いが、染み付いた拒絶感に従い、表通りへと歩き出す。
『やっぱり来ないと思ったけどな』
「えっ……?」
強い力と忘れるはずの無い声に、白都は愕然とした。
後ろには、消えたはずの御面が居た。
最初のコメントを投稿しよう!