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教室とは一転、トイレは静寂に包まれていた。
哀の声どころか、物音一つしない。
周囲の温度がここだけ低い気がする。私の体がぶるっと震えた。なにか嫌な予感がした。
勇気を振り絞り、歩みを進めた私の目の前に広がる光景は、予想をはるかに超えていた。
真っ白だったはずの床を染める鮮やかな赤色。
乱雑に投げ捨てられた哀の靴や鞄。
そして目を見開き、恐怖にまみれた表情で地面を転がっている
哀の頭。
その目は何かを伝えるようにしっかりと私の目を見ている。
そこに居たのはさらさらの長い髪を風になびかせ、笑顔を振りまくいつもの彼女ではなかった。
「あ…あぁ、あぁ……」
恐怖で叫ぶことも出来ない。
力が抜け、その場にしゃがみこみそうになるが、その凄惨な現場から一刻も早く離れたい、という感情が私の足を動かした。
今にも壊れそうな自分の心を守るために。
私の足は自然と中庭へ向かっていた。
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