マリオネットの喜び

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四章「マリオネットのメバエ」  それからリリーとロアは夏休み中ずうっと一緒にいた。一緒にオセロをしたり… 「んーっとここが黒になるから…ここに黒を置けば!!」 「はい。終わり。」 「えっえ。まだ置けるところが……ああ!もうまた負けた!」  リリーはロアにいつも勝てないのだ。そうして一緒にお絵かきしたり… 「ロアってばやっぱり上手ね。」 「…リリーのは個性的。」 「ほめ言葉として受け取っておくわ。」  ロアは絵がとっても上手で被写体そのもののような絵を描く。リリーはちょっぴり絵を描くのは苦手だ。そうして一緒にお菓子を作ったり… 「私、もっと甘くしたいな。」 「本通りに作ったほうがいい。」 「あら、これはその人の味っていうのよ?」  ロアは本通に作ってリリーは甘党。でも、そんなリリーの料理もロアは気に入ってるみたいに見える。そうして一緒にお勉強さえする。 「あ、リリーそこ違う。1だよ。」 「え、うそ、ああ、本当だわ、やっぱりロアは頭がいいのね。」 「そうかな。」 「えっとこれは4でしょ!」 「違う2だよ。」 「えーまた違うのお!はあ、私は勉強苦手よ。」  そう言ってリリーは床に大の字で転がる。 「やればできるよ。」 「誰にでも苦手はあるのよ!」 「オセロもお絵かきも苦手?」 「うるさい。」  軽くロアの鼻をつまむ。 「はーロアはすごいわね。なんでも出来ちゃうんだもの。」 「……。」 「でも、私だって得意なもおはあるのよ。」 「例えば。」 「運動。」  リリーはそう言って胸をはった。リリーはもともとインドア派ではない。外で元気いっぱいに遊ぶような女の子なのだ。しかし、外はロアが嫌がる。だから今までスポーツという遊びは避けていた。 「外は…ダメ。」 「どうして?」 「怖いものがいっぱい在る。」 「そうかしら。たのしいわよ。」  勉強部屋の一室。ロアは膝を立ててイスに座っている。その様子はまるで幼く、一見14歳くらいに見えるが時々5歳児ほどに見えてくるのだ。 「行って見なきゃわからないわ!」 「分かるよ。外はダメなんだ。」 「ふーん。じゃ、私一人で行くわ!」  そういて席を立ち扉を開けようとした…。 「ダメ!!」  いままで聞いた事のないような声の大きさでロアは叫んでいた。その事実に一瞬ロアからその声が出たのか不思議に思い、立ち止まる。そうしてロアの方へと向く。 「また…おいていくの?」  かすかに聞こえるその声は、その言葉は酷く聞き覚えの在るセリフだった。 「ロ…ア?」  ロアは自分の名前を呼ばれハッとする一瞬自分じゃないなにかに取り付かれたように何事もなくリリーを見つめていた。そうして長い沈黙が流れ静寂を破ったのはロアだった。 「今日は…もう遅いし。夕飯にしよう。」 「え、ああ、うん。そうね。」  リリーはそう言うしかなかった。これがきっとロアが発した助けてのサインだという事をリリー知らなかった―  下へ降りて夕飯の準備をしようとキッチンへ入るとそこにはハロルドがいた。 「あ、叔父様、まだ夕飯できてないわよ。」 「うん。分かってるよ、早く作業が終わったから夕飯の手伝いでもしようかなっと。」 「やめて。食材を無駄にしたくないわ。」 「ひどいなあ、今日はできる気がするんだよ。」 「気だけもらっておくわ。」  ハロルドはまいったなと苦笑してあきらめてイスに座った。そうしってじっと二人を見ていた。 「ロア、小麦粉とって。」 「はい。ありがと。ってちょとわあ!いきなり手はなさないでよ。ヶッホ。」 「リリー顔真っ白。」 「あ、今笑ったわね!こうしてやる!」  リリーは自分の顔についた小麦粉をロアに塗りたくる。 「……。」 「ありゃ。怒った?」 「食べ物で遊ばない。」 「ああ、ごめんねロア。仲良くお料理しましょう。ほら。」  タオルでロアの顔をぬぐい綺麗にし、自分の顔もぬぐう。ロアがそのタオルを手に取りリリーの顔をぐりぐりと拭く。 「ちょ、ちょっとロア!」 「仕返し!」 「ローア!!」 「ほら、お肉こげちゃうよ。」  ハロルドは正直驚いた。ロアが無表情の中で笑っていることに。もう感情は人間に近くなっていた。しか、それではダメなのだ。ロアは人形でなければならない。そうでなければならないんだ…。ハロルドの内奥の欲が湧き上がる。 「ロア!」  どろどろとした感情がわきあがり、勢いよくロアの名を呼んだ。 「どうしたの?叔父様。」 「あ、ああ。なんでもない。ロア、探してきて欲しいものがあるんだよ。」 「はい。分かりました。」 「うん。ほら僕の書庫に『魔道全書』があるから探してきてよ。どうも本が多すぎて僕だと辺りの本読み出すから探すのに3日はかかるから。」 「了解しました。」  ロアはそういうと料理を中断して部屋を出てしまった。 「もう、叔父様、部屋は整理し。」 「リリー。」 「な、何よ。」 「君は残酷だね。」  ハロルドの放った言葉は十四歳のリリーには重々しくソレが何に対してかさえ理解が出来ずにいた。 「どういう、こと。」 「ロアのことだよ。」 「それがどうしたって言うの?あの子はどんどん人間らしくなってるわ。」 「ソレを本当に彼が望んでいるとでも思うのかい。」 「そ、それは!感情のない人生なんて楽しくないわ!」 「それは君の価値観でしかない。彼はきっと辛い事があって記憶を閉じた。そうに違いない。でなければ黒い瞳に真っ白な髪はありえないだろう?」 「でも!悲しい事ばかりじゃない楽しい感情だってあるわ!だからっ!!」 「君のエゴでロアを壊すつもりかい?」 「!!」  ハロルドの眼光は鋭く、リリーの心へと深く突き刺さった。 「君のそれはただの子供のわがままだ自分の物差しでしか物事をみていない。それにつき合わせてるロアは酷く可哀そうだね。」 「そんなこと…ない。」 「じゃあ、ロアに聞いてみるんだ。本当に感情はいるのか人間になりたいのか。案外君に合わせていただけかもしれないね。僕が仲良くしろって言ったからね。」  リリーは何もいえなかった。言い返す言葉が見つからなかった。丁度廊下から足音が聞こえて、ハロルドは何事もなかったように本を読み出し、リリーは平静を装った。 『ガチャリ』  重々しい空気の中で軽い音が空気を伝わる。 「マスターこれでよいですか。」  ロアは本を持っていきハロルドに尋ねた。 「ああ、早いな。ありがとう。」 「リリーおなべ止めないと溢れるよ。」  ぐつぐつとなべの中は今にも溢れんばかりである。 「ねえ。ロア。」  ロアは火をとめる。ぐつぐつという音はだんだんと静まっていく。しかし、リリーの鼓動はばくばくとなっていた。 「なに。リリー。」 「ロアは今でも自分を人形と思ってる?」 「…。」 「感情はいらない?」 「…。」 「私は…迷惑?」 「…。」  答えは全て無言で、最後の質問は顔をそらした。その回答にリリーは恥ずかしくなった。ロアのためを思ってやっていた行為が独りよがりな事を。自分のエゴだという事に。 「リ、リー?」 「何も言わないんだね、一緒に遊んだのも全部全部嘘だったの?」 「それは!!」 「…らい、ロアなんて大嫌い!」  その瞬間ロアはまるで電池がきれたおもちゃのようにプツリと動きをとめ、顔面は蒼白だ。 「ロ…アどうしたの。」  リリーもおかしいと思い、声をかけた。しかしロアはぶつぶつと何かをいっている。その一言に『アンジェ』というのが聞こえたのだ。そう、その名はお祖父様ともう一人しか知らない愛称…。 「やっぱり…ノワなのね。」  その名を呼ばれた瞬間…。 「うわああ!思い出したくない!嫌だ。」 「ロア!いや、ノワ!私の声を聞いて。お願い。思い出して、そうして私は貴方に謝り他の。もう一度やり直すために。」  床に転がるロアは聞く耳を持たない耳を塞いでうずくまる。 「お願いノワ…愛しいノワール。」  リリーはきゅっとロア…ノワールを抱きしめた。そうしてロアは糸が切れたようにプツンと意識がきれ、その場に倒れた…。
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