マリオネットの喜び

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―マリオネット;人形劇の操り人形 序章 「マリオネットの物語」 「ねえ、おばあ様、あのお話を聞かせて。」  少女は無邪気に庭にいる女性に声をかける。 「あら、やだ、私はまだおばあ様という歳ではないのよ。」  女性は優しく少女の頭を撫でて笑いかけた。今さっき水をかけた花道は太陽の光を浴びてキラキラと光っている。 「えぇ、じゃあ、なんて呼べばいいの。」 「そうね、名前に、ちゃん付けがいいわ。」  そう女性が言うと、庭に面する、窓からふと声がした。 「お母様、それじゃ、この子の常識が見につかないわ。」  少女は『あっお母様!』とぴょんぴょんとそちらへかけよった。どうやら、少女の母親のようで、少女と同じように、綺麗なブロンの髪と、愛らしい真っ黒な瞳だ。 「いいじゃない。貴方も私も結婚が早いものだから、もう、こんな歳でおばあ様なんだもの。いつまでも若くいたいじゃない。」 「でも…。」  女性は母親の目をじっと、しかしにっこりと笑っている。腹の奥底にしっかりとした、意思を持つ目だ。母親はその目をみて、諦めたように、ため息をついた。 「はぁ、お母様にはかなわないわね。」  少女はそのやり取りを右往左往に聞いて結局結論が分からず首をかしげた。 「えっと…。」  少女は女性の顔を見て『どうなったの』と投げかけるようにまじまじと見た。女性はその仕草がなんだか可愛くて、また、優しく少女の頭を撫でる。 「ふふっちゃん付け、ね。」 「わーい!やった!私ね、おばあ様の名前だあい好き!」 「あら、嬉しい。」  少女は女性の周りをたのしげにくるくるとまわっている。不意に寒い風がピュウっとふき少女は小さく『ひゃあ』と声をあげた。 「ふふ、じゃあ、中へ入って、お母さんに紅茶を淹れてもらいましょうか。丁度三時だしね。」  そう言って母親に目を合わせアイコンタクトをした。 「はぁい!分かりましたよ。この間もらったクッキーも持って行きますから、リビングで待っていてください。」  女性は少女の手を引き、リビングへ行く。リビングには大きな暖炉と木で作られた、揺りイスがある。女性は当然のようにそのイスに座る。少女もお決まりのように、女性の膝の上にちょこんとすわる。 「ねぇねぇ。あのお話聞かせて!」 「ふふ、何だったかしら。」 「お人形で人間のお話。」  女性は少し困ったようにしかし優しい眼で膝の上にいる少女をきゅっと抱きしめる。 「そうねえ、そういえば昔話したかしら。」 「うん。ずっとずっと忘れてたんだけどね。えっとしょさい?にあって…。」  少女は肩に下げているピンクのバッグから一冊の絵本を取り出した。 「あらぁ、懐かしいわ。しばらく読んでないかしらね。」  女性は懐かしむようにそっと絵本をうけとり慈しむようにその本を撫でた。その本は真っ白な表紙に真っ黒な字で題名が書かれている。しかし、その白ももう、何十年もたって黄ばんできてしまっている。 「この本はね、私の叔父様が書いたのよ。」 「おじさま?」 「そ、貴方のちょっと遠い親戚よ。」 「しんせき。」 「そ、家族の次に近しい存在。」 「ふーん。」  少女は半ば分かったような分かっていないよう表情で眉をひそめた。 「ねぇ、なんでこの絵本には文字が入っていないの?」  女性が一ページパラリと開くと、水彩画の綺麗な可愛い絵が見えた。 「この絵本はね、口頭で物語を紡いでいくのよ。」 「つむぐ?」 「そ、繋げるの。だからね私が貴方のお母さんにこの物語をよんで、貴方がソレを聞く。それをまた貴方の子供にって、そうやって繋げていくのよ。」 「ほえーすごいね!」 「このお話、貴方が三歳くらいに話したはずだけれど、覚えているの?」 「うん。なんとなく。物語はねあんまり覚えてはいないいんだけど、なんだか、この絵を見るとね、ちくちくするの。でも、一番最後のページをみてとっても幸せな気持ちになるの!」  少女の重みを身体で感じその重みがとても愛おしく感じた。 「あら、お母様懐かしいわね、その絵本もうちょっとこの子が大きくなったら読もうと思ってたけど、なんだか私も久々に聞きたくなっちゃった。」  リビングの奥から、母親はトレーにティーカップを三つのせ、イスの前の小さな透明なテーブルに置くと、一つ女性に渡した。少女にはピンク色のカップを渡し、残りのカップを手に取り、女性の横に座る。 「ふふっじゃあ、今日は特別に、この本の全ての物語を話しましょうか。」 「え!そんなのあるの?」 「長いけど、ずっと聞いていられるかしら。」 『うん!』  母親と少女は元気よく返事をして、母親までもが子供のようにきらきらと眼を輝かせている。その光景がなんだかおかしくて女性はしきりに笑った。 「何で笑うのよ。」 「だって、なんだか、貴方まで子供見たい。」 「あら、私もまだまだ少女の心を持ってるもの。」 「お話はやくう!」  少女はプラプラと足を上下に動かしせかせる。 「はいはい。」  女性は一口紅茶をのんで母親に渡すと、ゆっくりと話始めた。
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