ル・シエル

3/3
前へ
/56ページ
次へ
落ち着いてから電車で帰って、ゆっくりとアパートまでの道を手をつないで歩く。ずっとずっと、こんな風にいられたらいい。2人で手をつないで、これからの道を歩いて行けるといい。そんな風に2人は思っていた。 「明日の朝食はどうする?あ、ちょっと気になるパン屋が近くにあるんだ。行ってみようか」 弘樹が提案した。 「うん、行ってみたい。おいしかったら、常連さんになれるね」 奈緒子が微笑んだ。 そのパン屋は、アパートから2つ先の角にあった。暖かな色遣いの外観で、焼き立てパンの香りがふわっとする。 弘樹がドアを引くと、カランカラン、と可愛らしい音がした。 「いらっしゃいませ~」 角食パンに山形パン、バターロールにクロワッサン、メロンパン、デニッシュに総菜パン、いろいろなパンが綺麗に並べられている。2人はトレーを持って、どれにしようか選んでいた。 「私、チョコチップメロンパンにしようかな。弘樹は?」 「う~ん、迷うけど、りんごのデニッシュと粒あんパンにしよっかな」 「前から思ってたけど、弘樹って甘党だよね」 「バレた?かなりの、だよ」 「やっぱり私と気が合うね」 「でも、コーヒーはブラック?」 「それはそれ、これはこれ」 2人、笑いあった。 レジへ行くと、いかにも優しそうな小太りのおじさんが対応してくれた。 「564円ね。君たち、新婚さん?見ない顔だね」 「いえまだ・・・でも、きっとなります」 弘樹が笑顔で答えた。 店主さんが、微笑んで言った。「そうか。おおきに。また待ってるさかい、仲良くするんやで」 「ありがとうございます。また来ます」 手をつないで歩いて行く姿を、店主さんが優しく見守っていた。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

84人が本棚に入れています
本棚に追加