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落ち着いてから電車で帰って、ゆっくりとアパートまでの道を手をつないで歩く。ずっとずっと、こんな風にいられたらいい。2人で手をつないで、これからの道を歩いて行けるといい。そんな風に2人は思っていた。
「明日の朝食はどうする?あ、ちょっと気になるパン屋が近くにあるんだ。行ってみようか」
弘樹が提案した。
「うん、行ってみたい。おいしかったら、常連さんになれるね」
奈緒子が微笑んだ。
そのパン屋は、アパートから2つ先の角にあった。暖かな色遣いの外観で、焼き立てパンの香りがふわっとする。
弘樹がドアを引くと、カランカラン、と可愛らしい音がした。
「いらっしゃいませ~」
角食パンに山形パン、バターロールにクロワッサン、メロンパン、デニッシュに総菜パン、いろいろなパンが綺麗に並べられている。2人はトレーを持って、どれにしようか選んでいた。
「私、チョコチップメロンパンにしようかな。弘樹は?」
「う~ん、迷うけど、りんごのデニッシュと粒あんパンにしよっかな」
「前から思ってたけど、弘樹って甘党だよね」
「バレた?かなりの、だよ」
「やっぱり私と気が合うね」
「でも、コーヒーはブラック?」
「それはそれ、これはこれ」
2人、笑いあった。
レジへ行くと、いかにも優しそうな小太りのおじさんが対応してくれた。
「564円ね。君たち、新婚さん?見ない顔だね」
「いえまだ・・・でも、きっとなります」
弘樹が笑顔で答えた。
店主さんが、微笑んで言った。「そうか。おおきに。また待ってるさかい、仲良くするんやで」
「ありがとうございます。また来ます」
手をつないで歩いて行く姿を、店主さんが優しく見守っていた。
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