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エピソード2 謎の海賊放送局
しばらく続く暗闇と静寂とタイヤの音、、、、、このまま暗闇のさらにその向こう側、、自分の感覚も思考も薄れて行き自分という存在が彼岸の彼方に持ち去られてしまうのではないかと恐れることがよくあるのだが、そういう時には必ず恐れという心の自動ブレーキがかかり始める。
そして生きることの意味を必死に探し始めるという断続的な脳内ゲームが展開されるのだった。
すると突然意図されていたかのようにカーラジオから静寂を破るような不愉快極まりない声が聴こえてきた。
そういうものだ。
己が作り出した創造は何か外側のアクシデントにいともたやすく破壊される。
しかも誰かに意図されていたかのように。
ラジオのDJにはよくありがちな軽薄なノリと喉元から出てくる浅い声は九官鳥のようにハイテンションだ、、そして聞いたこともない、そしていつ消えて忘れ去られてしまうかもわからないようなこの放送局。
この遠くから聴こえくるような突然消えそうなノイズ混じりの不安定な音量とトーン、、、おそらく海賊放送なのだろう。
「カモーン!こちらパイレーツステーション埼玉!
みんな元気でやってるかい?
いや〜最近みんな疲れてるね。
ハルマゲドンも近いし日本お先真っ暗!
ノストラダムスさんの大予言当たるのかな?
1999年はまだ先だけどおいらまだ独り者だから結婚できるまでまってておくれよ〜お願いだからさ〜!
東北自動車道も県道も不景気で灯は真っ暗闇!
こんな呪われた夜には事故を起こさないように気をつけて運転してくださいね。
次のリクエストは、、ななな何とアンゴルモアの大王さまからだよ!
、、じゃなくて、、
つけ麺大王さんからのリクエストで、、、
呪われた夜!by イーグルス」
ラジオから流れるサウンドを聞き流しながらしばらく走り続けた。
通りを外れた街灯のない暗闇の向こうに小さく赤いネオンが光っている。
「おっ!あそこにネオンサインが見えるぞ!
あれはよく見ると温泉マークじゃないか?
しかもラ、、ラドン鉱泉と書かれている。
こんなところにラドン鉱泉があるなんて!
とにかく行ってみよう」
ネオンサインとはなんて人の安っぽい下心をくすぐるものなのだろう。
お寺の鐘が鳴り
彼女は戸口に立っていた
ボクは問いかける
ここは埼玉かはたまたカリフォルニアか
すると彼女は薄笑いを浮かべ部屋へと案内した
廊下の向こうからは 念仏の声が聞こえる
ようこそ カリフォルニア旅館
ここは辺鄙な場所 まだ牛や馬が歩いている
ここは埼玉県 大字カリフォルニア
佐山茶しかありませんが おくつろぎくださいませ
やっと休息できるかもしれないという安堵感とともにそのネオンに近づいて行くとどうやら東北地方にあるような木造で裸電球の湯治宿のようだった。
この辺りは田んぼばかりでそばに立っている小屋には牛や馬がいまだに繋がれていた。
湯治宿の入口を見ると「カリフォルニア旅館」という古臭い看板がかかっている。
「カリフォルニア旅館だって、、
ここは埼玉県なのにカリフォルニアなのか?」
住所をよく見ると確かに
「埼玉県大字カリフォルニア」とも書かれていた。
納得できるようなできないような、
でもこんな冗談ちょっと無理だよな、、、
そんなことはどうでもいいからとにかくここで休むことにしよう。
朽ち果てたような木造の宿泊棟
今にも切れそうな裸電球
鎮座する大きな招き猫
名前知れずの地元女性演歌歌手が写っている破れかけたポスター
半分壊れかけた入口には着物姿の30代前半ほどの女性が立っていた。
どうやら彼女は私に向かって手招きしているようだ。別にほっぺたを抓らなくても現実なようだが、やはり疲れからか非現実の世界に迷い込んだ気分だ。
見ず知らずの中年男をやすやすと迎え入れていいものなのだろうかと不思議に思ったが、私がここにやって来ることを誰かに事前に知らされていたかのように彼女はそこで私を待っていたのだった。
名前なんぞはどうでもいいが礼儀として一応聞いておいて損はないと思うや否や彼女は静かに挨拶をした。
彼女の名は由紀子だった。
私は無言のままで靴を脱ぎ、薄暗い裸電球の続く長い廊下を彼女に案内されるがままに建物の奥へと入って行った。
長い髪に半分ほど顔を隠しその隙間から見える謎めいた薄笑い。
彼女は美しく魅力的でもありまた怪しくも思えた。
狐に化かされているような気分だ。
いや彼女は実は狐でそのうち正体を明かすかも知れないとか想像したりもしたが
結局は彼女はここの若女将なのだろう。
「ナンマンダブナンマンダブ、、、」
薄暗い廊下の奥からは地の底からわき起こるような念仏の声が聞こえて来る。集団で唱えるその念仏が折り重なり倍音となって旅館全体に響きわたっている。
彼はこの異様な状況に不安を感じて若女将に問いかけた。
「いったいこの念仏は何なのですか?」
若女将は何も言わずに薄笑いを浮かべていた。
「横顔は素敵なんだが、、変な女だな!」
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