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エピソード8 マッコイ大脱走
イタコの後ろで佇んでいた若女将はしばらく間をおいてから、、
「お母さん!私が言いたいことをマッコイさんに伝えてくれてありがとうね」
「マッコイさん、私の母が私の言いたいことを伝えてくれましたが、この旅館は先代が亡くなってからは母と私で切り盛りしているのです」
マッコイは驚いて言った。
「驚いたなぁ、、若女将さん!
あなた方は親子だったんですね」
「どおりで顔がそっくりなはずだ」
「じゃあ、若女将さん今度はあんたがイタコをやるんだよね」
若女将は恥ずかしげにうなづいた。
イタコの母は頬のシワをゆがめながらうれしそうだった。
するとガードマンは言った
落ち着いて自分の運命を受け入れるのです
テイクアウトは自由ですがもう2度と美味しい唐揚げ定食を食べることはできません
ようこそ カリフォルニア旅館
ここは素敵なところ
また来てくださいね
ますますボクはここを離れがたくなってしまった。
だが離れがたいのも山々だったが涙目になりながらも今そのまま向きを変え薄暗い廊下を走り出さんなければならないのだと悟った。
理由はわからないが未来はここにはないのだから、、。
もう念仏の声は聴こえなくなっていた。
私は来たはずの廊下を足早に戻り戻り出口を探した。しかし迷路のようになっていてなかなか本物の出口が見つからない。どこをどう来たのかすら思い出せない。
いくつものドアノブを汗ばんだ手で回したが鍵がかかっていたりあるいはドアノブ自体がついていなかったり、ドアノブが何の出入り口でもない壁から飛び出しているだけのオブジェのようなもの、中にはドアノブの絵が壁に描かれているだけのものもあり焦っているのが自分でもわかった。
「ドアノブ如きで悩むことなど今までなかったのに、、一体どうすりゃあいいんだよ!」
しかしどうにか迷いながらもカギのかかっていないドアをやっとのことで見つけ出してドアノブを恐る恐る回してみると以外とたやすく錆びついたドアはガガガと開き夜の涼しげな風と共に肥やしの香りが自分の頬をなぜた。
さほどの日にちは過ぎていないはずなのだが懐かしい感覚を覚えた。
今はどこにもない肥やしの香り、、あの子供の頃からの懐かしい香り。肥溜に落っこちて泣いたあの日のことを回想した。
目の前は広々とした駐車場でその先には自分の車が置かれているのが見えた。
だが出口の目の前にはガードマンが立っている。
真面目そうではあるがうだつの上がらなそうな黒縁メガネの中年ガードマン。
別に無理に突破しなくても簡単にすり抜けられそうな雰囲気だった。
彼はまるでゲームに出てくるような決まり文句しか言えない人畜無害な脇役キャラクターのようであり脱出はとても簡単に見えた。
するとガードマンは言った。
「落ち着いて自分の運命を受け入れるのです。
テイクアウトは自由ですが2度と美味しい唐揚げ定食を食べることはできません」
私は彼に言った。
「落ち着いて自分の運命を受け入れるですって? から揚げ定食のことなどよりも早くここを抜け出して自宅に戻りたいのです」
そう言って私はガードマンの脇をすり抜け車へと向かった。
案の定、何を考えているのかわからないこのガードマンも黙って突っ立ったままこちらを眺めているだけだった。
追っては来なかった。
おそらくガードマンはここでのゲームのマニュアル通りに職務を遂行しておけばそれでよかったのだろうし、あの若女将とイタコの母から文句を言われる事もなさそうだ。
「何て無感情な奴なんだ、、一体何を思っているんだろう?、、しかしそんなことはどうでもいい。
ここを抜け出すことが先決なのだから、、」
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