魔法弓のカナン

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7 シャムルハーク  ネコ姉のヤツ、医務室で足の手当をしてやったばかりか(あのガキ、崖から落ちたときにくじいたとか言ってるが。ほんとかどうか。痛がってるふりだけじゃねーのか?)、第六層の大広間に案内して食事まで出しやがった。しかも豪勢な料理だ。おれらがふだんここで口にしてるヤツよりよっぽどいい。おれにも食わせろってんだ、くそっ。  素性のわからんあのガキは、来客用の石椅子にすわって右を見たり上を見たり左をみたりしている。ま、珍しいんだろうな。たしかにおれも、はじめてここを見たときはそれなりにビビったのを覚えている。 「す、すごいですね、ここ」  食事をぜんぶたいらげてから、そのガキが言った。 「何がだ?」 「天井です。高い」 「まあな。第9層まで、ずばっと吹きぬけてるからな。いちおうここがメインホールってわけだ。ちょっとした風格があるだろ?」  おれはいちおう話を合わせてやる。 「そしてまた、すごいです」 「だから何が?」 「柱です。装飾。あ、彫刻、というのかな?」 「岩鬼の手仕事だ」 「岩鬼?」 「そうだ」  おれは簡潔にうなずく。 「あいつら頭の回転はあと一歩だが、手先は器用だ。器用すぎる。ほとんど天才だ。この砦をつくったのもヤツらだし、内部に彫刻を刻んだのも、床石を磨き上げたのもすべてあいつらだ。まあ、生まれながらの石職人ってのか。ま、そういうやつらだ」 「へえ。知りませんでした。岩鬼が――」 「どうぞお茶でまし」    岩鬼のデカい給仕が、いつものまずい苔茶をおれたちの前にもってきた。こいつらなりに気をつかってくれてるんだが、なにぶん、まずい。いや、何度飲んでもまずいな、これ。なにより、香りがひどい。香りじゃなく、臭気だなこれは。雨に長くさらされた皮靴の臭いに近いか、あえて言うならば。まあおれは大人なニンゲンだから、いちおう上官としての礼節をまもってうまそうに飲んではやるけれども。いやはや、マズッ。  客人のガキも――、いや、捕虜のガキか。まあ何だっていいんだが。そいつもまずそうに飲んでいる。飲め飲め。どうだ、まずいだろう、ははは。いっぽうネコねーちゃん――女王は――非常にとてもうまそうに飲んでいる。しみじみと味わってやがる。む、本気でうまがってるな、やつは。ったく、舌が死んでるだろ、あんたそれ。
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