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「何をしにきたのか、イジャフ森に?」
ずっとだまっていたネコ姉が、いきなり質問した。なかなか直球な質問だ。おれもぜひその答えが知りたい。
「南のコスに行く途中だったんです。山越えで」
ガキが、ぼそぼそと答えた。
「でも途中で道がわからなくなって。まさかここまで山深いとは知りませんでした。無理して渓谷の上の道まで出て、そこで不注意に足を――」
「何をしにコスに行くのだ?」
女王が問う。またしても直球な質問。ときどき本気でこの姉ちゃんは天才じゃないかと思うことがある。本気でじつはアタマがよかったりするんじゃないかと。いや、しないだろう、それは。しないしない。おれは瞬速でその考えを否定する。
「……言わないとダメですか?」
「ダメではないが、ききたいのだぞ」
「おれもききてーな、それを」
おれは苔茶を飲みきって石のカップを床におく。横にひかえていた給仕が二杯目をつごうとしたが、おれは満面の笑顔で辞退する。
「そうですね。命を助けていただいて、すばらしい食事まで頂きましたからね。恩人です、あなた方は。そうですね、うん」
ワカモノはしばらく迷っていたが、やがて心を決めたように、おれと女王のほうをかわるがわる見て、それから話しはじめた。ん、しかしなかなか育ちが良さそうな顔だ。「さわやか好青年」の見本って感じか。十代でぜんぜんとおる。二十六とか言ってやがったが。あれ、嘘なんじゃねーの?
「ぼく、逃げてきたんです、正直に言うと。追われてきました。ぼくはずっと、追われつづけて。それで――」
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