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2 ザスクルス将軍
【 ローザッハ王国 東の辺境 午後 】
軍船の列はきめられた配置をくずさずに黙々と上流へむかう。その数48隻。先発した工作部隊とあとからの戦闘船団をふくめると、船数は80をこえる。総兵力は三千と少し。理想的とは言いかねるが、まずまず悪くない数字だ、今回の敵の戦力を考えるならば。船の速度は想定どおり。漕ぎ手の奴隷たちも悪くない働きをしている。
「ふぁぁ。あととどれくらいだ?」
船首から、グサグフ卿がものぐさな声を出す。
「日没までには」
私はがまん強く答える。これで12回目だ、あの豚ぶとりの総司令がこれをきくのは。
「いや、ひどくゆれるのぉ、この船は」
「船首だからです。いちばんゆれを感じます、そこは。下におりて休まれては?」
「中は空気が悪くていかん。奴隷くさくてな」
「………」
私は肩をすくめる。やれやれ。とんだお荷物だ。こんなバカ貴族が、しかし、今回の戦役の総司令とは。まったくもって気がめいる。まったく王は何を考えているのか。それにもまして貴族院は?
シャングラー河。
言わずと知れたローザッハ王国いちばんの大河だ。私たちはいま、その源流、東部辺境のイジャフ山脈をめざしている。いまこの場所で、川幅は1ナクスほど。北の岸は、ここからは遠すぎて見えない。水深もかなりある。しかしあと数刻も進めば山がせまり、川幅はぐっとせまくなる。シャングラー渓谷の入り口だ。ここに、敵の一の砦がある。すでに先発部隊を近くに張らせている。日没にあわせて、ここを急襲する。
「何をむずかしい顔しとるのだ?」
豚ぶとりの総司令が、くずれたにやけ顔をこちらに向ける。
「今日このあとの作戦について考えていました」
「はっ。根っからの軍人だのぉ、おまえは」
「軍人ですから」
「いや。堅苦しくていかん。もう少し気楽にやれ。ちょっとは笑え笑え」
「これは真剣な戦です」
「だが戦ったって、敵はあれだろう、ただのバケモノだろう? え?」
「ただの、ではない。きわめて組織された異種族の軍団だと。そのように報告をうけておりますが」
「組織のぉ……」
グサグフ卿は、ムダに長い口ひげを右手でなでつける。
「だいたい大げさなのだ。おまえら軍人たちは。兵三千もいるか? 辺境のバケモノ相手に?」
「一帯を制圧し、長期にわたってそこを守るにはそれでも十分とは言えませんな」
「じゃあ、何人いればよい?」
「……六千。できれば七千」
「かはっ。そんな人数がおれば、西域の魔法使いども相手でも楽勝だろうが」
「エル・ザドーナ?」
「それそれ。そのエルなんとかよ。また先週も西の国境を侵犯したとかしないとか」
「エル・ザドーナが相手であれば、一万でも足りません。現に西の国境には今も二万以上が張りついている。卿はどうやら、わが国の国境防衛にあまりご理解がないようで」
「理解しとうもないわ。興味すらない。そもそもなんでワシがこの手の軍務にかりだされにゃならんのだ? わしは文人貴族だぞ? そもそもの仕事をまちがっとる」
「それは私の知るところではありませんな。ちょくせつ王に言っていただきたい」
「あーくそ、ぬるくて生ぐさいのぉ、ここの川風は。ムカムカ吐き気がしてきたわ」
「吐くなら水の上にどうぞ」
「言われんでもわかっとるわいっ」
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