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3 ぼく(カナン)
【 エーナッド砦 】
たしかにトリデと言うだけのことはある。
砦だ、これは。小さな城。
渓谷の上、遠目には、まるっきり自然の岩棚と見せかけて。岩をくりぬいて四角い窓がいくつも。窓の内側には灯がともり、何かがたくさん動いている気配。でもそれが何か、だれなのかはわからない。ひょっとしてあのヒトたち、ニンゲンではなかったりする?
デカくて赤い鳥のカギ爪にぶら下がったままで、ぼくはひとつの窓を通って中におりた。着地の衝撃を心配したけど、とてもふわりと降りた。鳥なりに、ぼくを気づかってくれたらしい。
「ココデマテ」
鳥はそう言って、ふたたび天窓から出て行った。バサバサという羽音が遠ざかり、消えた。
ここで、ね。
はいはい。待ちますよ。待ちますけど――
ぼくが下ろされたのは、ニンゲンが四、五人ならんで寝られるくらいの、広いとは言えない四角い部屋だ。床も壁も天井も、天然の岩をそのまま荒く削ったもの。天井付近に窓がひとつ。これはさっき、ぼくが入ってきた窓だ。窓の外には午後の青空。木の香りのまじった風が、ひゅるりと吹きおりてくる。
奥の壁にひとつ、木の扉。おそろしくぶあつい板でできた古い扉だ。ためしに押してみたけど、ひらかない。取っ手がないから、引くことはできない。
うん、なんだか軽く、閉じ込められたって感じ? あ、でもあれか、ココデマテ、とか言っていたよね。じゃあまあ、待つか。待ちましょう。うむうむ。
ぼくはひらきなおって、ぺたりと床に座った。しばらく待っても何も起こらない。ぼくはゴロリと床にねころんだ。石のひんやり感がつたわってきて気持ちよい。長旅のつかれから、というか、正確には長旅というより単なる逃亡生活なんだけども、まあとりあえずつかれていたから、ぼくはそのまま寝てしまった。何か短い夢を見た。夢の中身はよく覚えていない。
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