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5 ぼく(カナン)
強烈な痛みで目がさめた。
痛み、だよね?
衝撃があまりにも強く、それが痛みであることに気がつくのに時間がかかった。そしてなんだこれ、息ができないじゃないか、げほげほ、これはいったい、どこの何の遊び??
「動くなよ、」
頭の上から声が飛ぶ。
オトコの声。わりとハスキーな渋めの声だ。
「おい、聞こえてるかあんた? 聞いてたら、なにか返事をしろ。首をちょっと動かしてみろ。お、そうそう。なんだ、ちゃんと聞こえてるじゃねーか」
ぼくは体をひねって声の方を向こうとする、けど、できない。きつく押さえつけられている。いたたたた、そして腕腕腕っ。
「あ、気をつけろよ。いまヘタに腕を動かしたらサクッと折れるぜ? そうそう。いい子にしてれば何もしねーよ。(すでにしてるじゃないか、とぼくは心の中でつっこむ、)あとちょいだ。よし、きれいにしばれたな。どうだ、手を動かしてみろ。動かない? なら上出来だ。次は足な。足出せ、ほら」
顔を床におしつけられて、ぼくは何も見えない。何が起こってるかつかめないまま、とりあえず痛くないように、男の声の命令に素直にしたがう。やがてどうやら足も腕もしっかりとしばられたぼくは、ごろりと、床に転がされた。ようやくぼくの目は、そのオトコの姿をとらえた。
「なんだ、まだガキじゃねーか?」
見下ろしているのは、やせた色黒のオトコ。ザラザラとまとまりない黒髪を肩までのばして。目つきがするどい。とてもするどい。けど、悪人顔という感じでもない。歴戦の兵士とか、その手の顔だ。あごのまわりには、ワイルドにちらした無精ひげ。なかなか説得力のあるヒゲだ、あれは。危険だけど極悪ではない、みたいな。オトコが着ている服は、いや、服じゃないな、あれは。なにか皮でできた鎧みたいなもの。「みたい」ではなく、それはたぶん本当に戦用の鎧なのだ。なんといっても砦だからね、ここは。
そいつの後ろにひかえてる二人、いや、二人というか、二匹というか。やたらとカラダのデカいイキモノ。ニンゲンではない。ちょっとニンゲンに似てるけど、違う。ひょっとして、これがうわさにきく山岳部族のグモルってやつ?
「まずきくぞ。名は?」
ニンゲンのオトコが、とてもよく切れそうなナイフを片手でもてあそびながら、(おいおい、よしてよマジで!)つめたくぼくを見下ろして言う。
「……カナン」
「いくつだ?」
「二十六」
「ウソつけ」
「本当です」
「どう見ても16とかだろ?」
「よく間違われます」
「んー、まあ歳はどうだっていい。とりあえず率直にきくぞ? ローザッハの軍人か?」
「いいえ」
「ウソじゃなくて?」
「ウソじゃありません」
「このナイフの切れ味に誓って?」
「誓ってホントです」
「じゃ、いまから指おとすけど、いいかな?」
「ダメです」
「ならホントのこと言おう。ローザッハのスパイ?」
「違いますってば」
「ったく、しょーがねーなーこればっかりは」
「あ、やめてやめてやめてやめて! 指! 指! 指! 本気でホントに違うんだったらば! あ、やめ、やめ、おねが――」
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