魔法弓のカナン

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「いや、すまなかったのだ、ホリョのヒト、」  その人は、言いながら、とても器用に、ぼくの手足の戒めを解いた。長いサラサラ髪が、ぼくのそばでゆれる。 「立てるのか?」 「た、たてますね、今度は。あ、でも、いたたたた……」 「いたむのか? 足?」 「ええ、ちょっと……」 「では、肩をかすのだぞ」 「え?」 「ほら、これで歩けるのか?」 「あ、あるけますね、はい……」  そうして肩をかされて、近くで見るその人の横顔、ああ、ほんとやわらかいな、彼女の腕、  あ、えっと、なんかでも、このヒト、ちょっとふつうのニンゲンじゃないよね?   えっと、これって何?   ネコハーフ? ネコ人? 山猫ミンゾク?   なんかネコ耳とか、ついてるけど? しかもしかもネコヒゲ??  「わたしのヒゲが、めずらしいのか?」 「え、あ、はい、少しだけ」 「そうか。だけどこっちには、おまえのヒゲなし顔が、すこしめずらしいのだぞ?」 「は、はい」 「だからおたがいさまなのだぞ?」 「で、ですよね」 「おいおいネコねーちゃん、どこ連れて行くんだよ、そいつ?」  鎧オトコが、こまった顔であとをついてくる。 「医務室にきまってるぞ?」 「はっ。そいつぁ、ずいぶんと寛大なことで」 「カイダン? のぼるのか? それともおりるのか?」 「カイダンじゃねーよ。カンダイ。あんた心が広いってほめてんだよ」 「そうか。ほめられたのだな、わたし、」  その人が、大くてふわふわした猫くちびるをいっぱいに広げて笑った。えっと、たぶん、そう、笑ったのだと思う。推定。  ぼくは思わず、その横顔に見とれた。  うーむ、笑うとけっこう、かわいい。うん。「けっこう」というか、「とても」だな。彼女、猫だけど。半分は猫だけど。なんかすごく猫かわいい。髪は長くてサラサラだし。猫なのに。そして何かとても良い匂いがするし。猫なのに。
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