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6 ぼく(カナン)
【 エーナッド砦 医務室 夕方 】
「いたたたたっ」
「しずかにするな?」「おおげさな?」
「さわぐとケガにひびくな?」「しずかにな?」
「安静にな?」「動かないのな?」「な?」
とても小柄な(たぶん)看護係のヒトビトが口々に言う。人数は、ええと、八人か、九人くらい。ちょろちょろと足もとを走りまわるから数えられない。小柄と言うか、うん、これはもう小人だな、もはや。背丈はふつうのニンゲンの大人の、膝くらいしかない。
かけまわってるのはどの子も、みんな女性に見える。少なくとも外見は。えっと、たぶん女の子だよね? ね?
「湿布はるな?」「さきに消毒な?」
「消毒もうしたな?」「してないな?」
「したな?」「してないなっ?」
「湯桶もってきたな?」「水じゃないとダメな?」
「冷やすのな?」「さっきは湯がいると言ったな?」
「言ってないな?」「言ったのな?」「言わないのな?」「言ったはずなのな?」
「ってかうるせー。ちょっとは整理してからしゃべれ。アタマがくらくらしてくるっつーんだ」
さきほどの鎧オトコが、部屋の向こうからどなった。うん、ま、言いたい気持ちはわかる。入れかわりたちかわり、白衣の小人たち、あるいは看護娘たちは、ぼくの足首を洗ったりさわったりなでたりひねったりしながら、何のかんのと大さわぎでかけまわる。でもとりあえずさいごには湿布みたいなものを当てて包帯をぐるぐるまいた。手際は、まあ、悪くはない。
「できたのな?」「まだ痛むのな?」「具合はどうな?」「どうな?」
小人娘たちがいっせいにぼくを囲み、大きなまんまるの目でこっちを見上げる。
「えっと、いや、だいぶ良くなりました。あ、ありがとうです」
ぼくは足を上げたり下げたりしながら、とりあえず、お礼を言った。うん、悪くない。さっきよりはぜんぜんまし。これならひとりで歩けるかも。
「完成な?」「成功な?」「仕事終了な?」
「でも夜にはまた包帯かえないとダメな?」
「包帯の予備を用意しておくな?」「しておくな?」「な?」
またさわがしく何かの準備をはじめたちっちゃい看護人たちをそのままに、ぼくは鎧オトコのあとにつづいて医務室を出た。
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