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『新たな生命の誕生』は、どちらの世界でも特別なものであった。現世では祝福を、幽世では憎しみをもってその生命を神に知らしめるため、教会へ産まれた子供を連れていく風習があった。幽世の女はすぐに籠に黒い布を敷き、子供を寝かせた。そして、鏡を通り現世の教会へ旅立った。
一方現世の女は、周囲の労いを受けて子供を湯浴みし、籠に白い布を敷いて子供を寝かせた。そして、教会へ旅立った。
「こんばんは」
「こんばんは、素敵な夜ですね」
教会の前で、2つの世界の女が出逢う。2つの生命を抱いて。
「貴女も祝福に?この子も産まれたばかりなの。」
「……ええ、貴女も?」
そして同時に教会に入る。一人は祝福をもって、一人は憎しみをもって生命の誕生を神に知らしめるため、祭壇の上に子供を寝かせた籠を置く。すると突然、
ガッシャアアアン!!!
何かが派手に割れる音、吹き込む風、燭台の蝋燭もランタンも吹き消され、暗闇が辺りを支配する。
「ひっ…!!何?何が起きたの!?」
混乱した現世の女は籠を抱いて教会を飛び出す。しかし幽世の女は動じない。
「チッ…下級霊共の仕業か……」
今宵は収穫祭。普段なら現世に居られないような存在でも現世に居られるとあって、人ならざるモノが蔓延る特別な日であった。それに乗じて混乱を起こそうとするモノは珍しくなかったが、自分も巻き込まれるとは思わなかった──
そして空間に焔を灯し、幽世の女は気付く。
──籠の布が、白い。
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