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火炎放射機男と恋
透析室で動き回る珠乃を俺は目で追う。珠乃は看護師という仕事を頑張っていた。長い髪が後ろで縛られている。動く度に髪は揺れる。私服はどんな格好だろう?髪はおろしてるのかな?様々な珠乃を知りたかった。四時間は長い時間の透析だが珠乃の魅力に短く感じる。この四時間しか珠乃といれる時間はないので貴重なのだ。
「森田さん、血圧です」
珠乃はベッドの横に立ち言った。
「珠乃さん」
俺は珠乃を見つめる。
心なしか珠乃は顔を赤くして仕事をこなす。どうしたら関係が進むのか。
「珠乃さんが好きなのです」
その言葉がでかかる。我慢する。
明日映画に行くという情報が聴こえてくる。珠乃が一人で映画を観に行くらしい。
翌日。
俺は映画館ソラリスにきていた。霞城セントラルの地下である。俺はストーカーじゃないぞ。
突然、サイレンが鳴った。
「火事です。映画館職員に従って逃げてください」
館内放送が鳴る。
シアターから人々が出てきてエスカレーターの前でパニックになっていた。
叫び声や悲鳴が聴こえてくる。
ただの火事じゃない気がした。
炎はソラリスを燃やしていく。
救急車やパトカーのサイレンが高らかに聴こえてくる。男はエスカレーターを下がっていきながら火を放つ。
「ついてない」俺はエスカレーターに向かうが混雑していて進めない。
火炎放射機をしょいこみホースを構えて火を放つおかしな奴がいるという情報が聴こえてくる。男はゆっくりとエスカレーターを地下に向かいながら火を放つ。
俺はエレベーターの前で珠乃と男と会った。
「森田さん」
「珠乃さん···」
ついてないを消そう、ついてる。
「その男は?」
俺は聴かずにはいられない。
「あ、佐伯と言います」
男が言った。
「俺は森田貴弘です。珠乃さんに恋をしてます、佐伯さんは珠乃さんとどういう···」
俺は言ったが、そんな場合ではなかった。
「珠乃さんと森田さん、エレベーターはまだ使えるから行って!」
佐伯は消火器を手にしていた。
「好きなら守れ」
佐伯は開いたエレベーターに俺と珠乃を押し込み閉める。
「なんだよ、ヒーローのつもりかよ」
俺はつぶやく。
エレベーターは上へあがる。とガタンと停止する。
「珠乃さん、俺は珠乃さんとこれからの人生を共に行きたい」
珠乃は俺の腕の中に抱きしめられている。
「私でいいの?」
珠乃は言った。
俺はうなずく。
「好き」
珠乃は低い声だったが確かに言った。
エレベーターの扉が開き俺と珠乃がしっかり手を繋いで外へ飛び出した頃、救急車やパトカーは警戒をしてソラリスへと降りて行った。火炎放射機男は手当たり次第に火を放つ。
俺と珠乃は公園のベンチに座る。
二人の唇が合わさる。
「好き」
「好き」
お互いに気持ちを確認する。
心が幸福に染まる。
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