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記憶のない女性
山形駅構内。人が行き交う。
西口に通じるメインの通路だけあって、待ち人を待つ方々や改札向かいの売店に向かう方々、西口へ歩く人々、それぞれの事情を微塵も顔に出さずに歩いている。
西口へ向かって私も歩く一人である。
ペンと自由帳を手にして、不審者に見えないだろうかと不安を抱えて。
何人かに書いていただけただけで移動する。ペレストリアンデッキから西口へ。
ため息をつく。
恋をしている男性や20年前に迷子を助けた男性、その他諸々、色んな物語がそこにはあった。
私は歩く。それぞれの物語を思いながら。
私の物語は、ない。
会いたい人も抱きしめたい人もいない。
人の事を聴くだけで···私には記憶がない。私自身に···何があったのかわからない。
友人になってくれた女性が一人、彼女は大丈夫だと言ってくれた。
名前をくれたあの女性。
佐藤直子。なんかしっくりきた。
「ありがとう珠乃」
私は彼女に言った。その出来事が1ヶ月くらい前の事だ。
それから一向に記憶は戻らない。
珠乃とはしょっちゅう会っている。
どんな女性かはよくは知らないけど珠乃には何でも話せるのだ。
私は何者?
私はどんな人生を歩んできたの?
ホントの名前は?
いつかわかる日がくるのだろうか···
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