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再会
免許センターは空いていた。
視力検査をして写真を撮り講習に向かう。始まるまでは1時間以上ある。毎回の事だが講習室に荷物を置いて財布と煙草を持って喫煙所へ向かう。途中で自販機で珈琲を買って外に出る。隅に移動する。灰皿が置いてあり椅子がある。
煙草を咥えて火をつける。缶珈琲を飲みながら煙草を吸う。
告白してから告白がなかったかのような珠乃に俺はへこんでいる。
20近くの差は大きいか?障害者だからか?ブサイクだからか?珠乃の父親は何歳だろうか?父親との方が年齢が近いかもしれない。そこでまたへこむ。
珠乃はどんな人生を歩んできたのかな···
俺は煙草を吸いながら思いを馳せる。
椅子に引っ掛かっていた鳩の羽根が風で宙に舞う。
その羽根はどこまでも快晴の空にあがっていく···それからひらひらと山形の上空を進んで下降していく···。
鳩の羽根は霞城セントラルに舞い降りる···ひらひらと···
映画を見終えた佐伯はシアターを出る。
来た時と同じようにエスカレーターで地上へ出る。一番近くの出入口から外に出た。
ちょっとした公園みたくなっている。その木々の隙間をぬって鳩の羽根がベンチに降りた。
その羽根を私はよけて座る。
しばらく映画の余韻に浸る。
不意に影が私を現実に戻す。若い女性が立っていた。
じっと私を見つめていた。
「なにか?」
私は声をかけた。
女性は何も答えない。
「まさか迷子じゃないよね」
私は笑う。
女性はハッとしてまじまじと私を見つめる。
山交ビルの地下で泣いていた女の子は私の手を強く握り戦っていた。
大丈夫だよと何度も声をかけながら迷子センターに辿り着く。係員に説明をして女の子の頭を撫でた。
「お母さんすぐ来るからね」
私は言った。
「私東海珠乃、お兄ちゃんは?」
女の子はしっかりしていた。
「佐伯です。またね」
私はそう言って立ち去った。
私はあの女の子が浮かんだ。
「佐伯さん?」
女性が言った。
「10年前の迷子の女の子なの?」
私は聴いた。女性はうなずいた。
まさかの再会に驚く。
「東海···珠乃ちゃん、いや、さんか。もうレディだね」
私は微笑む。ずいぶん可愛い女性に成長した東海珠乃を私は見つめる。東海珠乃も私を見つめる。
「あの時はありがとう」
珠乃は言った。
そのそばにあった鳩の羽根がふわりと舞った。ふわふわと宙に舞う。木々を越えて上へ上へ舞う。ひらひらと山形を飛び回る···。
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