事件の直前

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事件の直前

 会いたい。会いたい。 もう一度好きという心を珠乃に伝えたい。 恋は久しぶりの40のおっさんが20近い年下の珠乃に告白をもう一度。  免許センターからの帰り道。車を走らせながら思う。連絡先も知らない、誕生日も知らない。知らない事ばかりだが、これから珠乃の事を知っていきたい。  車は郊外を走る。さほど車はすれ違わない。俺のこの恋は実るのか···  火炎放射機は背中にしょいこみホースを手で持ちボタンを押すと火が放たれるという映画で見るような物だった。裏の業界では有名なよく喋る曽我という男が準備してくれた。 車のトランクにしまい霞城セントラルの駐車場に止まっている。正幸は煙草を吸いながらどうするか考える。社内は煙草の煙りがくゆる。珠乃の家を燃やすか···。なんで映画館を燃やそうとしていたのか。珠乃が俺と別れて後悔するような事件を起こしてやれ。頭の中はぼんやりとしていて俯瞰してるような気分だった。上から自分を見ているような感覚。  珠乃のせいだ。珠乃のせいだ。俺がこうなったのは珠乃のせいだ。償え。ひれ伏しやり直しを乞え。と正幸は煙草を吸いながら怒る。正幸は狂っていた。正常な判断が欠如していた。  車からゆっくり降りる。 煙草を落とす。トランクにゆっくりと向かう。火炎放射機をしょいこみホースを手に握る。駐車場から霞城セントラルへと入っていく···ゆっくりした足取りで···。
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