仮面

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仮面

「おはよう」 教室では笑顔で挨拶をする。 「琉愛(るか)おはよっ」 友達はいつも通り挨拶を返してくれた。 毎日朝が怖い。 今日教室に入って誰からも返事がかえってこなかったらどうしよう。 また中学の時みたいになったら。 そう考えると冷や汗が止まらなくなる。 だけど今日は大丈夫だったその事実に安心し私は今日も笑顔の仮面の下で怯えながら今日を過ごす。 「ねー琉愛!お願い!今日の委員会代わりに出くれない?どうしても出れなくて」 そんな友達の数えたらきりがないほどのお願い事を断れない私は1言 「いいよ」 そう答える。 そう答えるしかないのだ。 「ありがとう!琉愛」 心の篭っていない感謝の言葉。 「やっぱ琉愛は優しいな」 「琉愛って本当女神様」 そう言う周りの人間。 全てが嫌いだ。 だけど。 だけど。 もうあんな事は絶対に嫌だ。 私はその為にここでは上手くやろうと外面良く過ごしているんだ。 チャイムが鳴った。 席に皆がつく。 私の席は特等席だ。 窓側の1番後ろ。 1番後ろというだけで視線を感じないことへの安心感があって本当にいい席だ。 授業が始まれば窓を見て暇をつぶす。 予習復習は完璧だ。 授業なんて必要ない。 つまらない教師の授業を聞くくらいなら窓の外の出来事の方が面白い。 この席で1番不愉快な事といえば。 痛い。 今日も隣の席の男からの視線が降り注いでいることだ。 きっと好意を持たられているのだろうが好意ほど気持ち悪く怖いものなんてない。 告白を断れば虐められる可能もあるし晒し上げられることもある。 だが告白を受ければ冷やかしが常にいる。 最悪だ。 告白をされない事を願いたい。 尽きない考え事をしていればあっという間に昼休みだ。 昼休みは毎日大切な先約がある。 誰にも気づかれないように教室を急いででて屋上に向かう。 話ができるのはこの時間かあの場所での短い時間だけなのだ。 この時間はとても貴重だ。 急いで屋上の階段を登り息を荒げながら扉を開けると既に皆居た。 無言で私は座った。 私の左隣にいるショートカットの子が南柚月だ。 私は彼の名前が好きだ。 そして右隣にいる綺麗な顔立ちをしているのが沼倉怜。 怜の隣にいる息を呑みほど美しい容姿の彼女は白百合美月名前すら綺麗だ。 そして最後の1人が月野谷静。 私がはじめてあの場所で出逢った人物だ。 全員様々な問題を抱えている。 そんな私達を巡りあわせたのがあの場所。 今日も唯一仮面を被らなくてもいい時間が始まった。 全員こことあの場所で集まっているときだけ素を見せられる。 特別な話はここではしないいちおう学校だ。 誰に聞かれているか分からない。 普通の話。 ただ自分のペースで話したり話さなかったり自由だ。 それがとても心地よい。 だが心安く時間ほどあっという間に終わってしまう。 1人ずつ席を立つ。 美月や怜は綺麗な顔立ちをしているからこそ目立つのだ。 そして狙っている奴僻む奴そんな人間に囲まれながら過ごしている。 勘違いや争いが起こる可能性もあるからこそ時間をあけ1人ずつ階段を降りて教室に戻る。 教室に戻ったら皆いつも通り仮面を被るのだ。 午後の授業も相変わらずつまらなかったはやく帰りたかったが委員会を頼まれていたので違う教室へ向った。 きっと怜や美月、静、柚月もいるだろう。 良くも悪くも同じ外面がいい人間だ。 委員決めで押し付けられたり私のように頼まれたら断れない人間達だ。 教室に入ると案の定見事に全員揃っていた。 だがここでは他人のフリ。 クラスも違う私達の事はここでは秘密なのだ。 今日は委員会で遅くなるし門限もギリギリだからあの場所にはいけないな。 と憂鬱に思いつつ黒板に書かれた文字を写し長い拘束時間が終わった。 時計を見ると門限がかなり近くなっていた。 やばい。 そう思い急いで学校を出た。 走って家へ帰る。 門限を過ぎないことを願いながら。 ガチャ 「ただいま。。」 ドアを開けると母親が目の前にいた。 チラリと時計を見ると門限ギリギリの時間だった。 「遅かったわね今日はなにもないはずでしょ。」 「今日は。。委員会を友達の代わりに出席してくれって頼まれて。。だから遅くなったの。。ごめんなさい。。」 そう言いながら委員会で使ったノートを見せる。 「そう。本当のようね。ならさっさと部屋に行って勉強しなさい」 「はい。お母さん」 毎日門限が近くなるとドアの前で待機して同じ事を毎回言ってくる母親にうんざりしていた。 階段を登り2つあるドアの右の方が私の部屋だ。 左は兄の部屋。 今はいない人間扱いの可哀想な兄の部屋。 「お兄ちゃん。。ただいま。。」 ノックをしドアに向かって話しかける。 「琉愛か。。おかえり。。。今日は学校で嫌なこととかなかったか大丈夫だったか。。?」 優しい声の兄に「うん。大丈夫だったよまたね。」そう返事をしやっと自分の部屋に入る。 兄は憧れだった。 頭も良くて誰にでも優しくて両親も自慢の息子だったろう。 大学受験に失敗するまでは。 ずっと親が兄に無理やり勉強をさせていた自分達の思う通りに進路も勝手に決めて。 兄はストレスとプレッシャーで潰れた。 大学受験に失敗した兄は両親から怒りをかった。 ついに家族として扱われなくなった。 夜まで引き篭もっている兄は夜になると働きに何処かへ行く。 私の唯一の家族の兄。 優しい兄を壊した両親は私に兄と同じように勉強を教えてきた細かい規則門限で縛り私を兄にしようとしてきた現在進行系で。 「疲れた」 そうベットに倒れ込むと私は眠りについてしまった。 ガチャ 誰かが扉を開ける音で目覚める。 「誰。。。」 寝ぼけながらも言った言葉に扉を開けた父親は大激怒した。 「お前勉強はどうした。しかも寝ているなんてどういう事だ!!!父親が帰ってきたというのに玄関までこないと思えば誰?だとこの野郎!!!」 いっしゅんで目が覚めた。 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 そう繰り返しても許してはくれない。 大変なことになったそう焦りながらも謝るしか私にはできない。 痛い。 さっき父親に殴られた場所が身体のいろいろなとこで痛む。 そう思いながらももうご飯も食べさせてもらえずどのくらい机に向かっているのだろうか。 部屋の外ではあれだけうるさかった両親も静かだ。 もう寝ている時間らしい。 けれどまだ寝てられない。 父親から課せられたペナルティ。 普段の倍以上の勉強を終わらせなければ明日の朝また殴られる。 はやく終わらせないとそう思っても痛くて力が入らない。 お腹も空いた。 非常食でも隠しとけばよかったと後悔した。 コンコン ノックされドアを開けると袋が置いてあった。 ドアを閉め部屋で袋の中身を見ると甘いものとコンビニのおにぎりそして飲み物が入っていた。 兄だ。 兄の罪滅しだ。 もう味のしないおにぎりを飲み物で流し込み力の入らない手に力を入れ必死で机にむかった。 何故こうなったのか。 兄のせい?私のせい?両親のせい?分からなかった。 ただとにかくこの世界からはやく消え去りたかった。 この救いのない辛い世界から。 私はあの頃から進めないままだ。 はやく終わりの日を迎えたい。 あと少し。 あと少しで終わりが来る。 だから耐えなければ。
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