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2 米粉のパン
「父さんは米粉って知ってるよね?」
「ったりめーだ! 米農家をやってるモンなら、誰でも知ってらァ!」
「私が就職したい所は今、米粉のパンを試作しているの」
「『米粉のパン』だとォ……!?」
父さんの目線があっちこっちにいき、やがて頭を抱えて最後はかきむしった。懊悩しているらしい。
パンの原料は小麦粉。だけど、原料が米粉なら話は違う。パンはパンでも米を粉状にしたものだ。厳密に言うと、父さんはパンやラーメンなどが嫌いなのではない。小麦粉の主食が嫌いなのだ。
「店長はいずれ全製品を米粉のパンにするって息巻いているの。私も正直、小麦のパンは好き。でも、試作の米粉のパンも負けないぐらいおいしいの!」
「……店長ってあの『さんご製パン』の三五(さんご)か?」
顔を少しだけ上げ、声量を落としたシラフのときに近い声。
「そうだよ。バイトをしているのもそこなんだ」
ふーっと盛大に鼻息を吐き出し、難しい顔で腕組みをする父さん。
「女なら安心だ。手を出すこともねェだろうし……」
何か変なことをゴニョゴニョ言っているけど、あえて無視して、
「米粉のパンを作り上げて、メディアに売り込んで全国区にしたい! 米を作る人たちに希望を見てほしいの!」
米の消費は年々右肩下がりに減少し続けている。そんな中で米を作っても、値段は安いし、昔ほど売れないし、天候はめちゃくちゃで等級は安定しない。成り手もいなければ、従事している人はお年寄りばかり。
だから私は、米粉で商機を見出してもらいたかった。若者が希望を見て米粉用の米を作って、それが売れれば幸せなんじゃないか――そう青写真を描きたくなる。
……そこは国や地方自治体ががんばって、より新規就農支援をしてもらえるようにしてもらいたいものだけどね。主に機械で支出がすごくかかるみたいだから。
「おう、姉ちゃんは良いこと言うでねェか」
「親父!」「じいちゃん!」
振り向けば白髪頭のじいちゃんがいた。
「今の時代はよォ、女も好きに生きれる時代だ。ある程度好きにさせてやれよォ」
「チッ、孫にはあめェじじさなんだっけな」
「ったりめェよ。息子に厳しく、孫に優しく。これもうちの家訓だ」
じいちゃんのどや顔に、父さんは心底呆れた様子で日本酒を飲んだ。
「バカらし」
「どうやらひとりで言えたみたいね」
いつの間にか母さんが帰っていたらしく、柱の影から姿を現した。
「この子もちゃんとひとりでやりたいことを言えたし、認めてあげてもいいんじゃありませんか?」
父さんの正面に座り、微笑む母さん。有無を言わさぬ威圧感が出ているように感じる。
「あ、ああ。そうだな」
たじたじになる父さん。咳払いをして、父親らしく重みのある口調で言った。
「俺に啖呵を切ったからにゃ、すぐ辞めんじゃねーぞ!」
「はい、がんばります!」
私は勢いよく立ち上がって母さんに抱き着いた。
母さんは笑顔で頭を撫でてくれ、娘の勇気を称えてくれているようだった。
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