序章

2/3

61人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ
「手助けしてあげようか」  艶やかな声が耳許で囁かれた。  男は小さな悲鳴を上げて、あとじさる。  自分の顔とちょうど並ぶようにして、フードを被った黒ずくめの少年が立っていた。 「だ、誰だお前……」  白々とした顔がこちらに向けられる。――男は目を(みは)った。黒ずくめの少年は異様に整った面差しで、どこか人間離れした風貌だった。眸子は闇を吸い込んだような漆黒。小ぶりな鼻はすっと通っており、唇は紅血(こうけつ)を垂らしたような色をしていた。フードから覗く髪は褐赤色(かっせきしょく)眉目秀麗(びもくしゅうれい)な少年だった。 「僕? そんなこと知っても意味ないよね。だって、おじさんはもう死ぬんだから」 「そ、そうだが――でも、何故ここに居ると分かった!?」 「僕には分かるんだよ。死にたいって強く願う人間の居場所がね」  黒ずくめの少年の抑揚のない声がそう告げると、男を見据えたまま柔和(にゅうわ)に微笑した。 「でもさ、おじさんこんな寂しいところで死ぬのは勿体ないよ」  そう云って、男の先にある何もない空間に人差し指を向ける。 「別に、いいだろう!? どこで死のうと俺の勝手だ!」 「うん、そうだね。おじさんの勝手だ。でもさ、最後に気持ちいいことしようよ」 「お前、何を云ってる……」  クスっと不気味に黒ずくめの少年は笑うと、 「さあ、僕にその苦しみを委ねて。僕ならおじさんの痛みを分かち合えるよ。――さあ……」  黒ずくめの少年は、やにわに男を抱き竦めた。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加