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息ができないほどに締め付けられている。ギシギシと骨の軋む音が聞こえた。――折れる。内臓まで潰されてしまいそうだ。だが、黒ずくめの少年はそんなことは構わずに、
「さあ、行くよ」
――チリン。
また、あの玲玲たる鈴の音が耳許で聞こえた。――すると、とたんに男の脳裏には今まで感じてきた苦艱と悲嘆した数々が鮮明に駆け巡っていく。それと同時に、心が安らいでいく感じもした。肺腑に蹲っていた憂いが吸い取られていくような……。――意識が遠のいていく。現実と切り離されていく感じがした。
「いいよ。怖がらないで」
熱を帯びた情念が心の中で入り乱れ、全身の内側から放出していくようだった。咆哮のような声が夜空を貫いていく。――そこで、男の意識は途切れた。
*
凍てつく風が流れていく。遠くに見える都会のネオンを見つめながら少年は微かに微笑んだ。――横ざまに倒れた男は地面に突っ伏したまま動きを見せない。
そして、少年の視線は違う方向へ……。
「君はまずまずだね。ほら、行っておいで。最後の御馳走が待っているよ」
黒ずくめの少年は僅かに残念そうに云うと、黒い靄を纏う見上げるばかりの巨躯をした何かに微笑みをたたえた。
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