やり場のない怒り

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    3  放課後、三人で資料室に向かっていた。  部長に話すということで、淕空にも前もって夢のことを話しておいたのだが――案の定、聞いた直後はいつものように軽い調子で流された。だが、二人の真剣な顔を見てただ事ではないと悟ったのか、それからは真面目に聞いてくれた。  凍砂は資料室のドアに手をかけて開けると、眼前に飛び込んできた光景にびくりと飛び跳ねた。おまけに「ひぃ」という、奇声まで上げてしまう。 「そ、そんなところで何やってんの?」  由茉は出入り口の真前(まんまえ)で、睡蓮(すいれん)の絵柄が施された瞑想マットなるものを地べたに敷き、その上で背筋をピンと伸ばして胡座をかいている。そして、両手の甲を膝上に置き、じっとしたまま目を瞑っていた。  唯人が人差し指を唇の前に立てて、 「しっ、声をかけたら駄目だよ。今、部長は瞑想中! チャクラのエネルギーを整えてる最中だ」 「チャクラ?」 「そうそう、チャクラ! えっとー、人間のエネルギーの出入り口だっけか? んで、それが七つ存在していて、えっとー」  淕空が上方(うえざま)に目線を向けて、こめかみを人差し指でくりくりと押し当てながら考えていると、 「セブンチャクラ。チャクラは〝エネルギー的な感覚器官〟よ。誰の身体にも主要なチャクラが七つあるの。しかも、その一つ一つが違う色を持っていて――私が今していることは、チャクラのエネルギーの出し入れを正常かつ理想的な色に近づけるための作業。エネルギーを整えて、オーラを調整し、精神のバランスを安定化させているの。で、それを続けていくと次第にチャクラのエネルギーの出し入れがスムーズになっていって、健康にも繋がるってわけ」 「あ、はい……」  聞いても全く理解ができなかった。 「ていうか、目の前でぺちゃくちゃ喋られたら、うるさくて瞑想できないじゃん!」 「ご、ごめん」  と、平たく謝ったあと、「でも、こんな出入り口の前でしなくても……」と、凍砂は苦笑いを見せる。 「見てわからない? 資料室は狭くて胡座をかけるスペースがここしかないんだよ」  凍砂は資料室を見まわしながら「ああ、確かに……」と、こめかみをコリコリと掻きながら頷く。 「まあいいや。みんなも来たし瞑想はこの辺にしよう」  由茉はマットを丸めるといつもの席に坐り、出入り口に立ったままの三人を見て、小首を傾げた。 「みんな何してるの? あなたたちも立ってないで席に坐れば?」 「今日は、部長に相談があって」  唯人が話を切り出す。 「相談?」
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