その後

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恐らくだけど、真柴が言いたかったのは内輪の揉め事を仕事に持ち込むなって事だと思う。 確かに、ここの所は意識して氷上を避けているが事実だがそれが何だ。氷上は普段から自分の仕事しかして無いし、打ち合わせにも加わらないし、内線にも出ないのだ。 何も変わらない。いつも同じ。仕事への影響なんてゼロに等しい。 これは子供のような意地っ張りではないのだ。 氷上塔矢との争いでさえ無い。 ホモ業界、ゲイ業界に存在する挨拶の後は「する」かどうかのお伺いになるという、さもしい文化との戦いでもある。 キスくらい何だと言ったあの目が許せない。 見た?あ、そうって軽さに腹が立つ。 エルパンチョでの光景を思い出したらまたムカムカして来た。このままランチ外交をしたって上手く笑えないような気がした。 それならやる意味は無くなる。 仕方が無いからその日は本来の仕事だけをする事にした。 今手掛けているのは結構大手のアパレルブランドから貰った発注だった。 どこで何を見かけたのか、未来企画のデザイナーである村井のイラストを気に入った担当者がTシャツデザインの打診をして来ていた。 それはただ単に普通のTシャツにする為、何点かのデザインを納品するだけでは無く、シーズンイベントとして大々的にフューチャーする企画物だ。手を抜く訳にはいかない。 村井を筆頭に氷上と洋平くんも加わり20点程上げたデザインを持って打ち合わせに向かった。 すぐに終わったけどな。 打ち合わせといっても主要なイベントの提案は真柴と柊木が担当しているから、下っ端である北見の仕事はデザインの有りと無しの選別を聞くだけなのだ。つまり、正に子供の使いだった。 ほんの15分前に通った一階のロビーに戻って来ると少し虚しくなる。 何だか悔しいからアンテナショップになっている店内を意味も無くグルグルと歩き回った。 「あれ?」 ふと目に止まったのは、中身が無いのか?ってくらい細い体だった。 どうやらアンテナショップの店員なのだろうが、身近にいるウスバカゲロウとよく似た体型をしている。ガボガボの長袖ビッグTは袖ぐりが大きいのだろう、よりガボガボに見えるがとてもお洒落だ。
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