1人が本棚に入れています
本棚に追加
「触んな変態」
「彼氏だからいーの」
身を包む男、隼巳は、正真正銘私の彼氏だ。悔しいけど。付き合って、もう一年が経つ。さらさら柔らかく揺れる黒髪に、世間一般から見れば整った甘いマスク。身長はそこそこ高い175センチ。
愛想の悪い私と一年も付き合っていて、一度も喧嘩らしい喧嘩をしたことがないくらい、性格も穏やか。だから、当たり前にモテる。引く手数多なはずなのに、何故かこいつは私と一年も付き合っている。めちゃくちゃ女の趣味悪いと思う。
「和泉」
名前を呼ばれると、逆らえない。見えない糸で引っ張られるように振り返ると、シトラスの香りがふわりと近づいて一瞬湿った温もりが唇に触れた。唐突すぎてリアクションが遅れる。
「なに」
耳が熱い。制服の袖で唇を拭うと、隼巳はちょっと拗ねたように口を尖らせた。
「なんで一人で先に帰っちゃうの」
「質問してんのはこっちなんだけど。なんでキスしたの、こんな公共の場で」
「教室の窓から帰る和泉の姿見て、慌てて追いかけてきた彼氏へのご褒美」
「それは私があげるものじゃないの」
「え、和泉から俺にキスしてくれんの?」
「馬鹿じゃないの」
また睨むと、隼巳は何が可笑しいのかケラケラと笑った。
「喉乾いちゃった。ちょっとちょうだい」
「はい」
「……あ、美味しい」
「買ってくれば?」
「うん、そうする」
最初のコメントを投稿しよう!