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一緒がいい
レモンと蜂蜜のイラストがプリントされた透明なカップが、外気との温度差で汗を掻いている。八分目まで注がれたハニーハニーレモン。大きめにカットされた氷がゆらゆらと泳いで、目の前の窓から差し込んだ光によってテーブルに映し出されたレモン色に影を落とす。
レンジファインダーを覗き込んでいると、ふわりと柑橘の香りが鼻を擽った。苦くて、甘酸っぱい。先々月に私があげたその香りは、主張が激しいわけでもなく、鼻に触れた瞬間に空気に溶ける。私はそれに振り返ることなく、広角24ミリメートルのレンズを嵌めたカメラのシャッターを押して、外の光に透けるハニーハニーレモンをフィルムに焼き付けた。
カメラをカバーに閉まって、カップを手繰り寄せる。指の先が少し濡れた。触れたところに水が集まって、下に流れていく。ストローの先を少し噛んで吸うと、甘ったるくて、だけど酸っぱい。
「美味しい?」
隣から掛けられた声。耳障りのいい柔らかな声は、周りがどんなにうるさくても耳に入ってくる。それがなんだか癪に障るから、聞こえていないふりをする。
それをわかっていて、隣の男は私の髪に触れる。ウルフレイヤーカットの髪の先を弄ぶ男の指が時々首筋に触れるのが擽ったくて、思わず横目で睨むと、男は楽しそうに笑った。
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