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「失礼いたします。王子殿下が入室をご希望でございます」
テントの外からの声で僕は目が覚めた。
レオは気配に気づいていたみたいで、とっくに起き上がっていた。
「おー、入れー」
ジュリアンがカイルを連れて入って来た。
カイルはレオに挨拶もしないで、無言のまま入り口に立った。
レオが鈴を持とうとするのをジュリアンが手で制する。
「茶はいらぬ。リュカの処遇について陛下から返事が来た」
と、言いながらジュリアンは椅子に座った。
「ずいぶん早いな」
と、レオも椅子に座る。
僕はベッドに半身を起こしたままだ。
「あまりにも早すぎる。まるで、勇者がリュカを専属にするのを見越していたような対応だ」
「で、返事には何て?」
「勇者の所有物に手を出すつもりは無いと、あっさり引き下がった」
「何だそうか、良かったじゃねぇか」
「うむ。だがその代わり、今日にも魔族の姫を受け入れろと言ってきた」
「今日?」
「今日だ」
レオが眉をしかめる。
「それはどういうことだ? 平民上がりの俺だって知っているぞ。王族の結婚にはその準備に数ヶ月も、いや長いと何年もかかったりするものだろ?」
「本来はな、だが今は戦時中だ。いろいろと例外を押し通しやすい時勢だからな。姫にはこの国の常識を学ばせるために、我が国の王宮で一年間教育するそうだ。今夜、国境を開けてこちら側へ入ってくるから、私に出迎えよという王命だ。そして明日にも転移陣で王都へ送り届けよと」
「嫁入り前のお姫さんをお前のテントに泊めるのか?」
「いや、それは新しいテントを用意するから問題は無い。だが、あまりにも急ぎ過ぎている……」
ジュリアンは自分が政略結婚することに抵抗は無いみたいだった。それよりも、あまりに急なことで準備が大変だとレオに愚痴っている。
僕はそのお姫様のことが気になった。突然よその国へ嫁いで行かなくちゃいけないなんて、きっとすごく心細いと思う。休戦協定のためってことは、人質みたいなものなのかな? ジュリアンは優しいからお姫様を大切にするとは思うけど……。
ジュリアンの方を見ると、何かを考えるように眉をしかめてこめかみに手を置いていた。
「もしも今のこの状況が陛下のシナリオ通りだとするならば、その目的は何だと思う?」
「今の状況?」
レオが首を傾げる。
「ああ、私に魔族の姫を娶らせ、リュカを勇者レアンドルの専属にしたことだ」
ジュリアンがベッドにいる僕を見た。
「まるで、私とリュカを完全に引き離すことが目的だったかのような……」
僕は首を傾げた。
僕とジュリアンを引き離す?
奴隷一人が誰のものになろうと、国の上の人達には何の関係も無いよね?
「ジュリアン、それはお前の考えすぎじゃねぇか?」
「……かもしれぬが……」
その時、僕のお腹が小さくクゥっと鳴った。
僕が慌ててお腹を押さえると、難しい顔をしていた二人がぷっと噴き出した。
「ジュリアン、やっぱここで飯食って行けよ」
「そうだな、頼む」
レオは笑いながら鈴を鳴らした。
朝食の用意が出来るまで、カイルは無言で使用人さん達を威圧していた。
使用人さん達はすごく急いで準備をすると、慌てたようにテントを出て行った。
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