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レオのテントでの朝食はいつも通り、硬いパンと塩味のスープと酢漬けの野菜、それから日本のお粥みたいなリゾットだ。
ジュリアンはパンをちぎってスープに浸しつつ、レオに言った。
「国境を開くからには、万全の体制を整えなくてはならぬ。フィリベールには軍の指揮を執ってもらうが……そなたは、私と一緒に出迎えに出なくてはならぬだろうな」
「うえぇ……めんどくさい」
僕にお粥もどきを食べさせながら、レオが舌を出す。
「そう言うな。さすがに勇者がこの地にいるのに、魔族の王女の前に顔を出さないというのは礼儀に反する。私とレアンドルは正装して、国境前で出迎えだ」
「へぇへぇ」
やる気なさそうに返事するレオに苦笑してから、ジュリアンは僕をちらっと見た。
「そうすると、リュカはエドゥアールのテントに避難させておこうか」
「それはだめだ」
「レアンドル……」
「私情で言ってるんじゃねぇよ。世界中で一番安全なのは俺の横だろ? 万が一襲撃があった場合、エドゥアール一人でリュカを守り切れるか?」
「エドゥアールはああ見えて魔王級だぞ」
「魔王が何だって言うんだよ。戦争時に一度まみえたが、本物の魔王だって俺の半分も魔力を持っていなかったぞ」
えー? すごい。じゃぁレオは魔王様の倍以上も魔力があるの?
僕はちょっとびっくりって感じでレオを見上げたんだけど、ジュリアンのびっくりはちょっとどころじゃなかったらしい。
カシャン、と音がした方を見ると、ジュリアンの前のスープの皿の中にスプーンが落ちていた。
「レア、レアンドル。そ、それはまことの話か?」
めずらしくどもりながら、ジュリアンは真っ青になってレオを見た。
「ああ、ほんとだけど?」
「それでは……それでは本当に人類最強ではないか」
「ずっとそう言ってるだろ? 俺は人類最強だって」
ジュリアンの喉仏がゴクリと動く。
「だが……あ、相手の魔力量が分かるなど聞いたことが無い」
「そうかぁ? フィリベールもエドゥアールも魔力量くらい分かると思うぞ。あと魔王も俺の魔力のでかさを感じ取ったから、あの時俺との直接対決を避けて、さっさと撤退していったんだろ?」
ジュリアンの喉仏が再びごくんと動いた。
「そう、だったのか……」
「ああ、お前と一般兵の違いとかは差が小さすぎてよく分かんねぇけど」
「わざわざ私の弱さを思い知らせるようなことは言わなくて良い」
「はは、悪い悪い」
ジュリアンは驚きすぎて疲れたみたいに、ふうっと息を吐いた。
「しかし、そういうことだったのだな」
「なにが?」
「魔族の国がなぜ勇者がいる我が国に侵攻してきたのかということだ。そして、なぜ攻め入って来た当初とは違って、かなり混乱したようにばらばらに撤退していったのか」
「なんでなんだ?」
「勇者は定説では魔王とほぼ同格の存在と言われてきた。当然、今世の勇者もそうなのだと思われている。私も含め誰もが勇者と魔王は互角だと思い込んできた」
でも実はレオの方が圧倒的に強者だった……。
「今、魔族の国には魔力量が魔王にも匹敵するという王子アランの存在がある。魔王とアランの二人がかりなら、勇者を退けられると勘違いしたのであろう」
レオは嫌そうに顔をしかめた。
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