1017人が本棚に入れています
本棚に追加
「勘違いで戦争かよ、くだらねぇ。こっちにはエドゥアールもフィリベールもいるんだから、そもそもの前提が間違っているじゃねぇか」
「確かにあちらの情報収集はお粗末だが……。ふふふっ」
小さくジュリアンが笑う。
「何がおかしいんだ?」
「それは常にそなたが目立ち過ぎていたからだと思ってな。あの二人は自己顕示欲があまりないから、モンスター討伐においてもいつもそなたのサポート役に徹していた。正確な実力が知られていないのも仕方あるまい」
「それだと俺が自己顕示欲の塊みたいじゃねぇか」
「その通りであろうが」
「言ってろ」
すねたようにレオは口を尖らせる。
「ちなみに聞くが、あの二人の魔力量はどの程度なのだ?」
「あー、まぁそうだな。エドゥアールが魔王とほぼ同じ、フィリベールはそれよりちょい劣るくらいかな。でもエドゥアールの魔力は多分天然じゃねぇ。後天的に手に入れたものだな」
「後天的?」
「ああ、生まれながらのものじゃないってこと。あいつの中にあいつじゃない気配があるから、あの魔力は後付けだなぁ」
「禁術の一種か?」
「さぁ、俺は魔法に詳しくないから、何が合法で何が禁術かもよく分からん」
「もしも何か危険があるなら……」
「ああ、それは無い。力も気配もずっと安定している。エドゥアールの中に何があろうと、それは完全にあいつのコントロール下にあるようだ」
難しい話の中にエディの名前が出てきて、僕はドキリとした。
エディの中にエディじゃない気配があるの……?
それって、なんか、怖い感じがする……。
「あの、それってどういう……? エディ……大魔導士様は大丈夫なんですか?」
「リュカ」
「はい」
「こっち向け」
「は、はい」
いきなり、レオは僕の口に吸い付いてきた。
「んん……」
深くしつこい口付けで、僕の舌を強く吸う。
レオは口を離すと、僕の頭を抱いて自分の胸にむぎゅっと押し付けた。
うう、ちょっと息が苦しい……!
「なぁジュリアン、癒しの魔法の使い手に心当たりあるか? 王都に残るにしろ、もらった領地に移り住むにしろ、リュカには定期的に魔力を補充する必要があるだろ。いつまでもエドゥアールの世話になるのは癪だ」
「癒しの魔法の使い手は非常に少ない。急ぎとなると、相場より高くつくが」
「相場の二倍でも三倍でも、それ以上でもかまわねぇよ」
「それならすぐにでも手配できよう」
「頼む」
そこでやっと解放されて、僕はぷはっと息をした。
ジュリアンがくくくっと笑いだす。
「リュカ、この男は寂しがりで甘えん坊でやきもち焼きなのだ。これから苦労するであろうが、根はいいやつだ。堪えてくれ」
「おい、そういう言い方はやめろよ」
苦々しくレオが言って、口を尖らす。
多分、お互い冗談交じりなんだろうけど、ちょっと気まずいので僕は話題を変えた。
今までここにいて、一度も聞いたことのないそれに対する、ちょっとした疑問を。
「あの、そういえばこの国ってなんていう国なんですか?」
最初のコメントを投稿しよう!