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テントを出ると、そこには別世界が広がっていた。
といっても、陽介のいた世界に戻ったわけじゃない。
それはまるでおとぎ話、絵本の中、夢の中みたいな光景だった。
いつの間にか日は暮れていて、夕闇の中、見渡す限りの広大な地に小さな光の粒が何千と輝いている。満天の星空をすべて金平糖にして、神様が地上にばらまいたみたいだった。
その銀河みたいに輝く草原を突っ切るように、テントから国境までの道がひときわ明るく照らされている。まるで天の川だ。
赤、青、緑、黄色にピンクに紫に水色……数えきれないくらいの光の粒が色とりどりに輝いている。
「わぁ……すごい、すごい……!」
僕は興奮して走り出した。
光に近づいてみると、それらはすべてひとつひとつが石だった。
宝石みたいな小さな石が内側から発光しながら浮遊している。
指で触れると温かい。
つついてみると、ふわりと揺れて離れてしまう。
そんな光る石が、ふわふわとそこら中に幾千も輝いている。
「レオ! エディ! すごいです! わー、きれーい!」
レオもエディも笑いながらついてくる。
「これ、何の石なんですか?」
「すべて魔石ですね」
「魔石? こんなにたくさん?」
「ジュリアンの苦肉の策だな」
「ええ、半日では何もできませんでしたからね。財力に物を言わせて、これだけの魔石を集めたのでしょう。私もこんな光景は初めて見ます」
「ああ、貴重な魔石を何の魔方陣にも使わずに、ただ光らせて使い切るとは、豪勢な無駄使いだなぁ」
三人で天の川みたいな道を歩く。
「リュカ、国境まで歩くのは疲れるだろう。そろそろ抱っこしようか」
「大丈夫です! もう少しだけ歩きたいです」
「分かった。疲れたらすぐ言うんだぞ」
「はい……!」
レオが手を差し出してきたから、僕はその手を握った。
エディがニコニコしながら、横を歩いてくれる。
浮いている魔石は僕らが歩くだけで、風にあおられたみたいにふよふよと動く。
僕の心も、ふよふよと浮いているみたいだった。
「キラキラして本当にきれいですね」
「ああ……都会のイルミネーションみたいだ……」
「はい、なんだかクリスマスみたいです」
「そうだな、まるでクリスマ……ス…………え?」
レオが立ち止まって僕を見た。
僕もつられて足を止めた。
「レオ?」
「リュカ、お前、なんでクリスマスを知っているんだ?」
ハッとして僕は自分の口をふさいだ。
さーっと血の気が引いていく。
つないでいた手を離して、レオが僕の肩に両手を置く。
「クリスマスを祝う習慣なんてこの世界には無い。リュカ、お前……?」
驚愕を絵に描いたような表情のレオの横で、エディが不思議そうに僕らを見ている。
「くりすますとは何ですか? 何を驚いているのです?」
エディの質問には何も答えず、レオは僕の目を正面から見つめてくる。
「リュカ、やっぱり……俺に嘘をついていたのか……?」
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