7-(4) 嘘をついていたのか

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 僕は身をひるがえしてその場から逃げた。  そして二秒で捕まった。 「リュカ!」  強く手を引かれる。  レオが僕の顔を見ようとする。 「ごめんなさ……」 「謝らなくていい。本当のことを教えてくれ」 「ごめんなさい……」  目をそらそうとする僕の顎をつかんで、レオはむりやり真っすぐに顔を向けさせる。 「リュカ……責めているんじゃない。教えて欲しいんだ。俺と同じで前世の記憶があるのか?」  僕は首を振った。 「本当のことを教えてくれ。何があっても俺はお前を守ると誓ったろ? 俺が信じられないのか」  レオの傷付いたような顔に、心がえぐられる。  今更になって、思い知った。  僕はひどいことをしてきたんだ。  自分の大事にしている人が別人だったなんて、それはひどい裏切りでしかない。  僕は嘘をついて、騙して、優しい男の人達の心を利用してきた……。  両目から一気に涙が溢れた。 「リュカ、泣かないでくれ。怒ってるんじゃないんだ。本当のことを知りたいだけなんだ」 「転生……じゃ、ない……ううっ」  だめだ。泣くのをこらえなくちゃ。  ここまで真摯に言ってくれる相手に対して、泣いてごまかすのは卑怯だ。 「ちが…う………前世じゃ、ない……です……僕は別人です……」  僕は必死にすすりあげて涙をこらえた。 「別人……? お前は、リュカじゃないのか……?」 「待ってください、お二人とも。いったい何を言っているのですか」  レオを見る。  エディを見る。  優しい男の人達。  リュカを大切にしている男の人達……。  嫌だ、言いたくない。  この人達を失いたくない。  僕はリュカになりたかった。  ずっとずっとリュカとして生きていきたかった。 ――でも。  ずっと罪悪感があった。  ずっと胸が痛かった。  偽物を生きるのはつらかった。 「僕は……リュカじゃない……リュカじゃないんです……」  僕はやっと、自分の罪を告白した。 「リュカじゃないのに……リュカのふりをしていました……許してください……」  エディが目を見開いた。 「リュカが、リュカじゃない……? どういう意味ですか……?」  きれいな黒い瞳が僕を見ている。  今はまだそこに驚き以外の感情は見えない。  でも、すぐにその瞳には憎しみや嫌悪の色が現れるだろう。  当然のように自分にすり寄ってきて、甘えてキスをねだった者が、偽物だったのだ。  それを知ったエディが、どれほどおぞましい思いをするのか。  見たくない。  僕を嫌うエディの顔を、見たくない……。
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