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ほんの一瞬でエディもレオもフィルも消えた。
魔石のイルミネーションも全部消えた。
ジェットコースターで急降下したみたいにぐらりと眩暈がして、僕はお姫様の体に寄り掛かった。
「あ……ごめんなさい……」
すぐによけようとしたけれど、体に力が入らない。
逆にお姫様は平気な顔をして、片手で僕を支えた。
「良い。転移に慣れておらぬ者は誰でもそうなる」
足の下には丸い敷物があって、縫い付けられたいくつもの魔石がぽうっと光っている。
僕はまだジェットコースターに乗っているみたいな眩暈の中にいて、ぐらんぐらんと視界が揺れて気持ち悪かった。
でも、分かる。
ここは建物の中だ。床も壁も石造りで、なんだか寒い。
「てん、い……って……」
さっき聞こえたエディの声も、『転移陣』だと叫んでいた。
多分、この丸い敷物が、転移の魔方陣だったんだ。
どういうこと?
どうしてお姫様は転移陣なんか使ったの?
お姫様はよろける僕の足をどかせて、敷物を引っ張ると空中にポイと放った。途端にそれはボウッと炎に包まれ、地面に落ちた時には灰になっていた。
「あの、ここは」
頭を抱え、ふらふらしながら尋ねる。
「まだしゃべらぬ方が良いぞ。どうせもう逃げられぬのだ。大人しくしておれ」
「え……」
お姫様が僕の体に近づき、ひょいと抱きかかえた。
僕と同じくらいに華奢なくせに、すごく力が強い。
「おお、間近で見るとさらに美しいな……。余のコレクションに加えてやる」
お姫様はニッと笑い、僕を抱きかかえながらどんどん歩いて行く。
そしてどんどん大きくなっていく。
あれ?
えっと、気のせい?
眩暈のせいかな?
それは目の錯覚でも、眩暈のせいでもなかった。
お姫様の体が大きくなるにつれて、豪華なドレスがびり、びりと破けていく。
リュカそっくりだった可憐な顔も変化して、目つきの鋭い青年の顔になっていく。
髪は金から白になって、青い目が金色になり、白い肌が褐色に変わっていく。角は巻いている形はそのままに一回りくらい大きくなっていく。
僕を抱き上げていた怪力のお姫様はもうどこにもなく、精悍な顔をした褐色の肌の青年が僕を嬉しそうに見下ろしていた。
「アラン様、お召し物を」
濃い青の服を着た女の人達が慌てた様子で追いかけてくる。
アラン様……? どこかで聞いた名前だ。
「あなたは、だれ……?」
「余か? 余は未来の大魔王アラン様よ」
未来の魔王ということは、今はまだ魔王じゃない……。
「魔族の、王子様……?」
僕を差し出せと言ってきたあの王子様?
アラン王子はニッと笑って僕の後頭部をつかむと、唇を重ねてきた。
「ん! いやっ!」
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