プロローグ

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 僕・日野陽介はいじめにあっていた。  原因は、ブサイクな見た目と卑屈で弱気な心のせいだ。  『顔』か『心』のどちらかが良ければまだましだったと思う。  今の僕みたいに、スニーカーを片足しか履いていなかったり、制服に赤いペンキでドクロを描かれていたり、頭の右側半分だけ髪を剃られていたりして、オモシロおかしい姿はしていないはずだ。  橋の欄干から下を覗く。  昨日雨が降ったから、なかなか良い感じに川の流れが速い。  まぁ、べつに、死のうなんて思っていない。  ただ、こんなオモシロくも哀れな格好で川を覗き込んでいたら、『死んじゃだめだ!』とかなんとか言って、どこかの心優しいヒーロー気取りが声をかけてくれたりしないかなぁ、なんて淡い期待を抱いているだけだ。    その一秒後、声をかけられた。 「ちょっとそこの人! どいて! どいてー!」  優しく肩を叩かれるどころか、僕は暴走自転車にぶつかられて、あっさり欄干から流れの速い川へダイブしていた。  えええー! うそだろー! 僕カナヅチなんですけどー!?  叫びはゴボゴボと水に飲み込まれて声にならなかった。  僕は『顔』と『心』だけじゃなくて、『運』もまったく良くなかったらしい……。
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