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驚いて顔を背けると、アランの顔が一気に怒りで染まる。
「嫌だと? 奴隷の分際で」
こ、怖い。
「ほら、口を開けろ。未来の王の口付けを拒むバカがあるか」
震える僕にアランは乱暴にキスをしてくる。
「んん……ん……」
むりやりされて、息が苦しい。
「なんだ下手だな……。何をもったいぶっておる。勇者どもを骨抜きにした舌遣いを見せぬか」
「で、できません……。僕は……」
「余に口答えするでない。首をかき切られたいか」
アランが軽く指を振ると、そこには氷の刃が握られている。
アランは脅すように刃の先でスーッと首の皮膚を撫でてきた。
ぴり、と小さな痛みが走る。
次の瞬間、温かい液体が首筋を流れていくのを感じた。
ひぅ、と小さく悲鳴を上げて、僕は動けなくなってしまった。
「案ずるな。皮一枚傷つけたくらいで死にはせぬ」
僕の心臓がどくどくと鳴り出す。
ジュリアンの言った言葉を思い出す。
魔族の王子は残忍で冷酷、残虐非道、気に入らない者はすぐ殺す。
僕の右手の手首がぽうっと光り出した。筆で描いたような繊細な模様が浮かび上がってくる。エディのくれたおまじないだ。
「ふふ、報せの術か。奴隷のくせに生意気な術をかけられておるな」
アランが僕の手首を取った。
「よく覚えておけ。身の程知らずはこうなる」
アランの手が僕の手首を握り込む。途端にジュウッと煙が上がる。
「あああっ!!」
僕は悲鳴を上げた。
激しい熱と痛みが右手に襲い掛かる。
肉の焦げる嫌な匂いがする。
「ふむ、術ごと焼くのは意外に時間がかかるな」
アランがさらに握る力を強くする。
「いやぁ……!」
僕は悲鳴を上げ続けた。
痛みに悶えて涙を流しても、アランは冷たい目で見下ろしている。
「まぁこんなものか」
アランが手を離すと、僕の手首は焼け爛れ、もう光は発していなかった。
焼かれたのは手首だけなのに体中が熱くて息が苦しかった。
「ああっ……いた……いたい……」
「うるさい、騒ぐな」
「……うっ……ううっ……」
「いくら叫んでも泣きわめいても誰も助けには来ぬぞ。素直にしていればかわいがってやろう。生意気な口をきけば即刻殺す。良いか、殺されたくなければ……」
あまりの痛みに朦朧としてくる。
恐ろしいことを言っているアランの声が、少しずつ意識の向こうへ遠ざかっていった。
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