7-(6) 「魔導士の激情」

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7-(6) 「魔導士の激情」

 自分がどれほどひどい男なのか、どれほどひどいことをしてきたのか、目の前にその結果が儚い少年の姿をして佇んでいる。 「リュカ……」  いいえ、リュカではない。  名前も知らないその少年が、私のせいで罪の意識に泣いている。 「嘘ばかりで、ごめんなさい……」  かすれた声は悲痛だった。 「リュカ……」  またその名を呼んでしまう。  それが、そもそもの間違いだったのに。  あの日、川で溺れたリュカを救出した日、テントで目覚めたこの子は怯えた様子ながらもちゃんと言ったのだ。  『僕はリュカじゃありません』と……。  でも、私達は……私は(・・)、その言葉を本気にはしなかった。  私がこの子をリュカと呼び続けたせいで、この子はリュカのふりをするしかなくなってしまったのだろう。  あの日、私は少しでもリュカを近くに置いておきたくて、その卑しい下心で、私のテントに泊まらせると主張した。  右も左も分からなくて途惑っているこの子に、私は甘く優しい言葉をかけて心を開かせた。  まったく性の知識も無かったこの子の無垢な体を、私は己の欲望のまま自由にして楽しんだ。  そして私に懐いたこの子が不安がっていたというのに、私は他の男にも順番に抱かれろと言い、そうでなければ戦争になると脅して自分のテントから送り出した。  こうして事実だけを並べてみると、私は何と非道な男であろうか。  奴隷制の無い平和な国から来たあの子の魂が、自分を取り巻く状況にどれほど怯え、どれほど心細い思いをしたのか。考えただけで胸が痛む。  最初にそばにいたのが私でなかったら、たとえばこの勇者レアンドルであったなら、この子の話をきちんと聞いて、別人であることを理解してやり、違う道を示してやれたかもしれない。少なくとも、これほどつらそうな顔をさせることは無かったはずだ。  過去にあれほど何度も愛していると言った相手が別人になっていることにも、私はまったく気が付かなかった。  今になってようやく分かる。なぜ、リュカが私の求愛を本気にしなかったのか。きっと私の浅はかな人間性を、あの賢いリュカは見抜いていたのだ。  瞬きをすると、私の目から涙がこぼれた。  なぜ泣く。  私には、泣く資格なんて無いのに。
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