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私も勇者もこの子の告白を聞いて、動揺していた。
そして剣士も動揺していた。
そうでなければ気付いたはずだ。
あんなあからさまな変化の術を見破れなかったとは……。
体を覆い尽くす不自然な魔力の流れよりも、その容貌の方に目が行ってしまった。
このタイミングでリュカに瓜二つな姫君が現れるなど、おかしいと思って当たり前だったのに。
「いけない! それは転移陣です!」
叫んで手を伸ばした時にはもう遅かった。
まばゆい光とともに、あの子と姫の姿が掻き消える。
「リュカ!」
すぐさま残された丸い敷物に乗り、数十の魔石に魔力を流す。
しかし私が転移する前に、ボウッと敷物が燃え上がった。
「熱っ」
それはあっという間に灰になってしまう。
「ちっ」
「くそ! 転移先の魔方陣を燃やされたか!」
私の舌打ちにかぶせるように、勇者の焦った声が響く。
「大丈夫です。報せの術があります。すぐにあの子の居場所が分かるはず」
私は意識を集中した。
この状況にあの子が恐怖を感じれば、同時に私にそれが届く。
どこだ。どこへ連れて行かれた。
焦燥感のためか、体が熱く、息が苦しくなる。
「あっ!」
私は声を上げた。
あの子の華奢な姿が見える。
大柄な半裸の魔族の男に囚われている。
石造りの壁、下働きらしき数人の魔族の女性、あとは何だ、何が見える。集中しろ。すべてを見通せ。あの子の首筋に赤い線が見える。そこから伝っていく赤い液体。私の心が悲鳴を上げる。すでに傷付けられている! 男が脅すような顔で何かを言う。大きな手があの子の光る手首をつかむ。
「やめろ! やめろ! あああっ! なんてことを!」
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