エピローグ

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  日本、関東のある高校。  放課後の空き教室でノートを広げて勉強している『陽介』。  廊下を歩いている少女が、開いているドアから『陽介』を見かけ、教室に入ってくる。 「陽介君、まだここにいたんだ。今日は部活来ないの?」 「おお、リナ、ちょうどいいところに。ここがよく分かんねぇんだけど」 「リナじゃない。満里奈。満里奈先輩」 「ああ、妹に似ているからつい」 「また適当なこと言って。陽介君は男兄弟だけでしょう?」 「んー、夢で見たんだ、かわいい妹がいる夢」 「かわいい妹? じゃぁ私もかわいい?」 「ああ、かわいいよ」  満里奈はパチパチと瞬きをする。 「陽介君ってそういうこと照れずに言うよね」 「ああ? かわいい子にかわいいって言うのに、なんで照れるんだ?」 「もう、やめてよ」  赤い顔をして、満里奈は手のひらをうちわのようにあおぐ。 「そんなことより、リナ。ここ、この公式のところが……」 「あれ? また小学校の教科書?」 「おう! この前は4年生だったが、もう6年生のところまで進んだぞ」 「へぇ、記憶を失くして一から勉強しているんだっけ?」 「ああ、勉強はいいな。やればやるだけ、結果につながる」 「ボクシングは? マネージャーとしては部活にも力を入れて欲しいんだけど」 「もちろん、ボクシングも大好きだ。これを切りの良いところまでやったら、すぐ行くよ。で、ここの問題なんだけど……」 「ああ、これね」  満里奈は『陽介』の隣に座って、丁寧に説明をする。  『陽介』は、ふと何かに気付いたかのように満里奈の首元に顔を寄せた。 「な、なに?」 「リナって、なんか、いい匂いするな」 「そう? 別に何もつけていないけど」 「なんつうか、女の子の匂いだ。すごくいい」 「もう、陽介君はそんなことばっかり言って! この女たらし!」  『陽介』がきょとんを首を傾げる。 「いや、俺は女を知らないし、この体は童貞だぞ」 「な、ななな、なんてことを……」 「なにをテンパってんだ?」 「本当の童貞は平然とそんなこと言わないわよ、バカ、エッチ!」 「いや……エッチとか……はぁ、そういうのはもういいや。俺がこの世界で生きるのには、生涯で一人の女がいればいい」 「なにそれ……もう、なにそれ」  満里奈が両手で顔を覆う。 「ん? 何だどうした、リナ。顔が赤くないか?」 「誰のせいだと思ってんのよ」 「俺のせいなのか?」 「おーい、そこの二人、またラブコメやってんのか」 「兄さん!」  教室のドアから、雄介が顔をのぞかせている。 「陽介、部活に行こう。マネージャーも」 「は、はい!」 「兄さん、今日は来れるのか」 「ああ、模試の結果も良かったし、ちょっと気晴らしに行こうかと思って」 「俺もすぐに行く」  『陽介』は楽しそうに勉強道具を片付け始める。  その時、窓からキラキラとした光の粒が入ってくる。 「おわ、なんだ?」 「え、なにこれ、きれい」  光は満里奈と雄介、『陽介』の周りを嬉しそうに回り出す。 「なんだか懐かしい感じがするな……いつもそばにあったあの気配か……?」  『陽介』は目を細める。  光は答えるように『陽介』の頬を撫でる。 「ありがとう。俺、こっちで楽しく生きているよ」  光は『陽介』の周りをしばらく飛んでいたが、名残惜しそうに窓の外へ消えていった。
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