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プロローグ
「残念ですが」
口髭を蓄えた白髪の男性が眉を八の字にして言った。部屋は重い雰囲気に包まれる。
「女王様は、あと一年、っていうところです」
「そんな……」
白いベッドの脇に立っていた大人びた少女は「何とかならないんですか」と白髪男性の肩を掴む。男性は口を真一文字にしてゆっくりと俯いた。そんな様子に、少女は苛立ったように男性の肩から手を振り離した。
「あなた名医なんでしょ。名医だからお母様の看病も請け負っていたわけでしょ。だったらもっと、それ相応の」
「シズカ」
早口で捲し立てる少女を、凛とした声が遮った。さっきまでベッドの中で下を向いて座っていた女性が、青白い顔でくっと少女を見た。
「先生には十分尽くしてもらったわ。みっともない言動はやめなさい」
「だって……。それにこの国はどうなるの。お母様がいないと、この国……」
「あなたがいるじゃない。そのために私はあなたをこの国に引き込んでしまったのよ」
「でも、それは本当なら当たり前のことで……」
「先生」
ここでベッドの中の女性が白髪男性を見上げた。
「すみません。娘と話したいのでいったん退出願えますか」
白髪男性は慌てたように「ああっ、気が利かずすみません……!」と広すぎる部屋を歩いて外に出ていった。音が響くように重そうな戸が閉まると一瞬静寂が生まれた。
「……どうしたの? お母様」
「シズカ」
女性は少女の右手に両手を伸ばし、それを包み込んだ。少女は戸惑ったように瞳を揺らす。
「お母様……?」
「私、あの子に会いたい」
その言葉に、少女はハッとしたように目を見開いた。
「あの子って……」
「うん。会って確かめたいのよ」と女性はゆっくり微笑んだ。そっと髪をかき上げる。そしてぼそりと呟くように言った。
「あなたの妹に」
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